生牡蠣を食べて冷えたシャブリを飲む――最高のほろ酔いを体験させてくれる女性作家5人のアンソロジー

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ほろよい読書 おかわり

『ほろよい読書 おかわり』

著者
青山美智子 [著]/朱野帰子 [著]/一穂ミチ [著]/奥田亜希子 [著]/西條奈加 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575526660
発売日
2023/05/10
価格
759円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

お疲れ様な自分を癒す、とっておきの一杯を! 大注目の女性作家5人が描く「お酒」と「人」の物語 『ほろよい読書 おかわり』青山美智子/朱野帰子/一穂ミチ/奥田亜希子/西條奈加

[レビュアー] 大矢博子(書評家)


生牡蠣と白ワイン(写真はイメージ)

 疲れた日には、おいしいお酒を飲みたい。たとえ飲めなくても、ほっと一息つける時間があったらどれだけいいだろう。そんな願いを“読む”ことで叶える一冊『ほろよい読書 おかわり』が上梓された。今をときめく女性作家5名による、お酒と人の織りなすドラマに酔いしれてみてはいかがだろうか。

「小説推理」2023年7月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで『ほろよい読書 おかわり』の読みどころをご紹介する。

***

■楽しい時、辛い時、傍には一杯の酒があった──。5人の気鋭が織りなす、お酒のアンソロジー。苦味と甘味のマリアージュに酔うこと間違いなし!

 2021年に刊行され好評を得た、「お酒」のアンソロジー『ほろよい読書』。その第2弾である。その名も『ほろよい読書 おかわり』だ。今回も今をときめく5人の書き手が、その筆を競っている。

 ──と、いかにも冷静に書き始めたが、いやもうこれ、飲みたい! 片っ端から飲みたい! 青山美智子の描く下戸でも大丈夫なノンアルコールカクテルに始まり、朱野帰子は生牡蠣を肴にシャブリもしくは日本酒、一穂ミチが描写する継母と娘の間を流れるジンの芳醇な香り、奥田亜希子はかわいい中学生の恋の話かと思いきや竜舌蘭から作る情熱のテキーラ、そして極め付きは西條奈加の解説も細やかな数々の日本酒……何これ飲みたい。特に炭酸飲料のような日本酒には興味津々!

 もしこれを一晩で飲もうもんなら悪酔い&二日酔い必至のラインナップだが(なんせジンとテキーラと日本酒だ)、小説なら大丈夫。むしろさまざまなお酒が出れば出るほどその世界の広さと深さにうっとりしてしまう。まるで実際に飲んだかのように、心が酔う、のである。

 もちろんお酒そのものの描写だけではない。どのような場面で、何を思いながら彼女たちは飲むのか。例えばSNS相互フォロワーと初対面でオイスターバーに行く朱野帰子「オイスター・ウォーズ」をお読みいただきたい。初対面と言いながら、実はヒロインには含むところがある。それが何なのかがわかったあとに待つ思いがけない展開。

 少しだけばらしてしまうと、一緒に牡蠣を食べるこのふたりはある意味「敵」なのだ。とびきり美味しそうな牡蠣の描写、それに合わせて飲むキリリと締まった日本酒とワイン。水面下で繰り広げられる心理戦と、テーブルの上の天国の対比が双方をより際立たせる。

 西條奈加のちょっと不思議な「タイムスリップ」も雰囲気抜群。ふらりと入った居酒屋で薦められた日本酒の数々は、その説明の巧さゆえに、まるで小説を舌と喉で味わっているかのような気持ちになる。が、ヒロインがこの店に出会えたのはまさに一期一会だったことが後にわかる。あの日、あの状況だからこそ染み渡った酒の味。それをまた違う状況で味わえることの幸せ。

 苦い酒に苦い話、辛口の酒と甘口の話、あるいはその逆もある。メニューはよりどりみどり。どこから飲んでも、いや、どこから読んでも大丈夫。最高のほろ酔いを体験させてくれる一冊である。

小説推理
2023年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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