『日本百名虫 フォトジェニックな虫たち』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
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『日本百名虫 ドラマティックな虫たち』
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『日本百名虫 フォトジェニックな虫たち/ドラマティックな虫たち』坂爪真吾著(文春新書)
[レビュアー] 川添愛(言語学者・作家)
100種の美と物語に魅了
控えめに言って、とてつもない名著だ。私は虫が苦手だが、この本はいつまでも読んでいられるし、気がつくと「実は私、虫が好きなのでは?」という気持ちになっている。息を飲むほどに美しい写真と、すべてのページからにじみ出る著者の熱意に触発されて、意識の奥底に潜んでいた昆虫愛が発動したのかもしれない。
一冊目が「フォトジェニックな虫たち」、二冊目が「ドラマティックな虫たち」だが、どの虫もフォトジェニックでドラマティックだ。マルタンヤンマのコバルトブルーの眼(め)、印象派の絵画のようなオオセイボウのグラデーション、青リンゴのようなオオアオゾウムシのボディ、「空飛ぶぬいぐるみ」の異名を持つビロードツリアブのモフモフ感。これほど多様で面白い見た目の虫を育む日本の国土の豊かさに驚嘆する。
著者が「それぞれの虫に個性があり、物語がある」と明言しているように、百種の虫すべてにドラマがあり、それを語る著者独特の表現がまた味わい深い。川の上流で生まれるセッケイカワゲラは、「上流階級」でありつづけるために雪の中をノコノコ登っていく。寄生先の虫の寿命を延ばすスズメバチネジレバネは、「その身を捧(ささ)げた代償として特別な力を与えてくれる、悪魔の呪いのような昆虫」。クワガタには「究極のクワガタ」と「至高のクワガタ」がいて、希少種を寄せ集める木は「集虫力」の高い「御神木」で、虫たちは「樹液酒場」にひしめく。虫を愛しすぎるあまり、突き抜けてしまったワードセンスが光る。
近年では、地球規模で昆虫が減少しているという話も聞く。今までは、「虫がいなくなったら人間の生活が成り立たなくなるからヤバい」としか思っていなかったが、本書を読んで、「虫たちがいなくなったら寂しい、どうにか生き延びてほしい」と思うようになった。読んで良し、眺めて良しのこの二冊を、虫が苦手な人、興味がない人にこそ強くお勧めしたい。