<書評>『南海トラフ地震の真実』小沢慧一 著
◆カネと政治絡む「予測」
ジャーナリストの故立花隆氏が1974年、田中角栄首相(当時)のカネと政治の絡まりを丹念に調査し「田中角栄研究」として発表したとき、新聞記者たちは「そんなことならオレも知っていた」と冷笑したという。書かなかった(書けなかった?)記者たちをよそに、疑問に思ったことは調べて書くジャーナリズムの力強さを、立花氏は印象づけた。
地震予知への期待を背景に、その可能性への疑いが膨らみながらも、地震学者や防災関係者が多額の国家予算で潤っている。90年前後にこの分野を取材した記者の多くがそう感じていたはずだ。南海トラフ地震の予測で今も続くこの構図を克明に調べ世に問う労作が結実した。科学界の田中角栄研究を見る思いだ。
科学がどう都合よく政治につまみ食いされるのか。そのとき科学者はどうすべきか。コロナ禍しかり。残念ながら、この国ではこれがありふれた物語なのか。本書の基になった新聞連載が日本科学技術ジャーナリスト会議の科学ジャーナリスト賞を受けたのも、当然だろう。
(東京新聞・1650円)
1985年生まれ。本紙記者。現在は東京社会部科学班所属。
◆もう一冊
『分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議』河合香織著(岩波書店)