「コメントなんて、何一つ思い浮かばなかった」小説紹介・けんごを深刻に悩ませた一冊とは

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世界でいちばん透きとおった物語

『世界でいちばん透きとおった物語』

著者
杉井 光 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101802626
発売日
2023/04/26
価格
737円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「コメントなんて、何一つ思い浮かばなかった」小説紹介・けんごを深刻に悩ませた一冊とは

[レビュアー] けんご@小説紹介(小説紹介クリエイター)


どうして深刻に悩んだかというと…(※写真はイメージ)

 今、「紙の本でしか出版しない」「ネタバレ厳禁」の謳い文句と驚きの仕掛けが話題となり、ベストセラーになっている本がある。

 その本の推薦文を出版社から依頼されたのが、小説紹介クリエイターのけんごさんだ。 TikTokなどで本を紹介するとたちまちに本が売れる現象を巻き起こしてきたクリエイターだが、この本に関してはいつもと勝手が違ったのだという。

 百戦錬磨のクリエイターを深刻に悩ませた本とは、一体どんなものなのか。けんごさんに、お話を伺ってみた。

 ***

けんごを悩ませた本の正体

『世界でいちばん透きとおった物語』を最初に読んだのは、本書が発売される数ヶ月前のゲラの段階だった。光栄にも帯に掲載される推薦コメントを寄稿することになったのだが、読了直後はその依頼を引き受けるかどうかを深刻に悩んでいた。

 推薦コメントなんて、何一つ思い浮かばなかったからである。

 僕がどんなに優れたコメントを寄稿できたとしても、本作の邪魔になるのではないかという不安ばかりが押し寄せていた。本作は、それだけ価値のある一冊であり、実に尊い物語なのであり、言葉で簡単に表すことができない小説なのである。一人の読書好きとして、生きている間に奇跡のようなこの作品を拝読できたことを誇りに思う。著者の杉井光さんには感謝の気持ちでいっぱいだ。

 本作には紙の本でしか成り立たない仕掛けが隠されている。「ネタバレ厳禁」という謳い文句で宣伝される小説は珍しくないが、本作も例外なくそのうちの一つだ。でも、もし仮にネタバレをされたとしても、実際に自分の目で読まないことには魅力の十分の一も伝わらないだろう。もちろん、ネタバレする気なんて毛頭ない。

 ただ、これだけは伝えたい。『世界でいちばん透きとおった物語』は、小説だけにかかわらずさまざまなコンテンツが電子化する世の中において、紙であることの意義を見出し、「ページを捲る」という些細な行動に対する喜びを実感させてくれる稀有な作品なのだ。

 それに、紙の本だから、という仕掛けだけが優れているわけではない。むしろ、物語と洗練された文章が優れているからこそ、結末と仕掛けの衝撃が際立つのだろう。

新潮社
2023年9月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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