『ソース焼きそばの謎』
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それはソース焼きそばがお好み焼きだったから。……えっ?
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
焼きそばはソースで炒めるもの。当然過ぎて考えたこともなかったけど、なぜ醤油じゃないのか、と聞かれると答えに窮する。なんで?
本書に記された答えはなかなか衝撃的。それはソース焼きそばがお好み焼きだったから。意味不明とツッコまれそうだけど、変な比喩とかではなくて、焼きそばはお好み焼きの一種として生まれたらしい。
戦前の東京・下町における原初のお好み焼きは〈鉄板と水溶き小麦粉を使って、和洋中様々な料理を形態模写した〉駄菓子だった。粘土細工ならぬ小麦粉細工。パロディーとして「天ぷら」やら「カツレツ」やらを作って楽しんでいたとか。
で、そんなメニューの一品として中華の「炒麺」を模したものがソース焼きそばだったというのだ。
著者は、国内外で1千軒以上を食べ歩いたという「焼いた麺料理」の愛好家。日本独自のソース焼きそばの来歴について、各地で聞き取りを行い、史料をひもとき、どうやって親しまれる料理になっていったのかを探究している。
新聞・雑誌の記事や書籍を渉猟して、証言を積み上げていく。小麦粉の需給関係や国際情勢といった時代背景を理路整然と解説。ソース後がけ方式がなぜ生まれたのかという独自の考察は必読だ。全国老舗調査は食べ歩きガイドにもなりそう。
関西人の私は、ソース焼きそばは戦後の大阪で生まれたと思い込んでいた。実際、10年ほど前までは戦後誕生説が有力だったそうだ。大阪の夕刊紙で記事を書き散らかしていた頃に、うっかり嘘を書いちゃってたかも。いまさらだけどすいません。
私たちを惑わせていた俗説について、著者は〈ルーツの記憶が断絶して後世に上書きされてしまったとみなすべき〉と一蹴しつつも、〈戦前の品々をまったく知らず、戦後に独自で考案した例もあり、それはそれで発祥といえる〉とも記す。あふれる焼きそば愛。