「男と寝ながら書いたのか」とかつて揶揄されたけど…「小橋めぐみ」も子宮が愛おしくなる作品
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- 花芯
- 価格:660円(税込)
「おばあちゃんは、瀬戸内寂聴が嫌いなんだって」
昔、寂聴さんがテレビに映ると、母はそう言った。夫と幼い子を置いて好きな人の元へ走った、その事実。同世代の祖母には“身勝手な女”との思いがどうやら染み込んでいたらしい。
私の中では“いつもニコニコ笑っている尼さん”だったが、今年、録画しておいた寂聴さんのドキュメンタリーを見て印象が変わった。こんなにも闘って生き抜いた人だったのかと。作品を読みたいと強く思った。
「きみという女は、からだじゅうのホックが外れている感じだ」
官能漂う台詞から始まる『花芯』で、新人だった寂聴さんは「男と寝ながら書いたのか」などと揶揄され、「子宮作家」なるレッテルを貼られることになった。
花芯とは中国語で、子宮を意味する。「必要以上に子宮という言葉が使われすぎている」と評されたそうだが、むしろ私は、女にとっての子宮の存在を再確認する小説のように感じた。
親の決めた相手と結婚し、息子をもうけた主人公の園子は、平穏な日々を送りながらも夫婦に愛情はなかった。ある時、転勤となった夫につき従って京都へ移り、そこで生まれて初めての恋に落ちる。相手は夫の上司、越智。一目惚れだった。園子は自らの気持ちを解き放ち、その運命は、周囲を巻き込みながら狂っていく。
出産前、セックスは子どもを産むため機械的に繰り返されるものでしかなかった。しかし、出産を経た園子は、ようやく快感を得る。
「子宮という内臓を震わせ、子宮そのものが押えきれないうめき声をもらす劇甚な感覚であった」
セックスによって初めて子宮の存在を実感した園子は、母性愛ではなく、官能に目覚めたのだった。胎児を宿した子宮は、もう一つのいのちを育んでいた。
「からだじゅうのホックが外れて」しまうほどの性の情動を。
しかし、園子は愛に支配されず、溺れることもない。
精神のホックは外れることなく、冷徹な目で自分も相手も見通す。恐ろしく、悲しいほど正確に。その視線は、ラスト三行で極みに達する。
性愛をテーマにこんなにも子宮を描いた小説があるだろうか。私は、私の子宮が今、とても愛おしい。
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