「オレ、年上の女が好きなんだよね」と振られた女優・小橋めぐみが出会った『肉体の悪魔』
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- 肉体の悪魔
- 価格:616円(税込)
昔、お付き合いしていた4歳年上の人と雲行きが怪しくなり、電話で別れを告げられた。「オレ、年上の女が好きなんだよね」
以来、年上の女というワードが頭から離れなかった。年上の女にあって、年下の私にないもの……。そんな時、レーモン・ラディゲの『肉体の悪魔』に出会った。
物語の舞台は、第一次大戦下のフランス。パリの学校に通う15歳の「僕」は、ある日、19歳の美しい人妻マルトに出会い、禁断の恋に落ちる。マルトの夫は戦地にいて不在だった。戦争の時代の只中で愛は燃え上がり、「僕」は述懐する。
「こうしたすべてがその場かぎりのことだという気持ちが、妖しい香りのように僕の官能を刺激していた」
だが、関係は周囲にバレ、愛は思わぬ道へと向かう。
この作品は「僕」の視点から語られ、マルトの内心の本当のところは分からない。だが、彼女が髪をほどき暖炉の前で寝たふりをして隙を与え、実際にはキスをリードしたり、「僕」が初めての接吻に恍惚としているところで「二度とここに来ないで」と突き放したり。確実に「僕」より上手な感じがある。まだ経験のない彼を次の段階へと誘うためか、お揃いのガウンを「僕」に贈るのも、年上の女だからできることだ。
もう「僕」は初体験の前には「想像がふくらんで、もはや想像も及ばないような快楽を期待していた」と、身も心もパンパンになる。が、マルトにリードされっぱなしだった「僕」は初体験の直後、こう感じるのだ。
「彼女の顔はいつもとは完全に変わっていた。宗教画のようにその顔をまさに後光が包んでいて、それに手で触れられないのが不思議なくらいだった」
私は思う。マルトは予想外に彼とのセックスが良かったのでは、と。事後の表情は、嘘をつけないから。
執筆時期はラディゲが16歳から18歳の折。20歳の時に出版されて大反響を呼ぶも、彼はほどなく急逝した。
それから百年。久しぶりに再読し、肉体の悪魔とは衝動のままに振る舞う「僕」ではなく、マルトのことかとふと思った。「わたしが泣いているのは、あなたより年をとりすぎているからよ!」と言った彼女だって19歳だ。
肉体の悪魔は、獲物を探していたのかもしれない。
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