『モノクロの街の夜明けに』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【児童書】『モノクロの街の夜明けに』 ルータ・セペティス作、野沢佳織訳
[レビュアー] 産経新聞社
■監視社会の青春
「鉄のカーテン」の向こう側の、知られざる圧政を暴いた物語。チャウシェスク政権が崩壊したルーマニア革命(1989年)とその前夜、独裁下の首都ブカレストを舞台にした歴史小説だが、リトアニア系米国人の著者はあとがきで「ルーマニア人の長年にわたる苦しみ」はフィクションではないと書いている。
主人公は17歳の男子高校生。秘密警察の諜報網が張り巡らされた街では、住民が互いの監視を強いられていた。家族の中にも密告者がいるかもしれない。息の詰まるような生活の中、主人公は意に反して密告者に仕立てられ、友情や初恋、家族まで壊されるが-。
著者は、秘密警察に関する専門家へのインタビューや文書の閲覧など調査に年月をかけた。ブカレストで年配の住民たちの家を訪ね、革命時に14歳で逮捕された女性からは、本書の舞台となっている警察署や刑務所、少年拘置所での経験を聞いたという。自由を求め、独裁政権の軍隊に立ち向かった若者たちの高揚感が伝わってくる。対象は中学生以上。(岩波書店・2750円)
評・寺田理恵(文化部)