『引きこもりの7割は自立できる』
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「もっと早く押し出してほしかった」
[レビュアー] 久世芽亜里(認定NPO法人ニュースタート事務局スタッフ)
引きこもりを解決するために支援活動を30年続けてきた認定NPO法人「ニュースタート事務局」の創設者・二神能基とスタッフの久世芽亜里さんによる新書『引きこもりの7割は自立できる』(新潮社)が刊行された。
内閣府が公表した最新の調査によると、全国で146万人もの方が引きこもり状態だとされ、2023年5月には厚生労働省が引きこもり支援を目的としたマニュアルを策定する方針を固めた。
引きこもりが激増し、「8050問題」も深刻化している状況で、どのように支援を行っていけばいいのか?
「ニュースタート事務局」のスタッフ・久世芽亜里さんが、新書刊行に寄せて、自立した事例の一つと今後の課題を語ってくれた。
久世芽亜里・評「もっと早く押し出してほしかった」
圭一くんは、専門学校を卒業し4年ほど働いていたものの、退職から5年間引きこもっていました。「後ろめたさもあって、自分が情けなくて」と圭一くんは親と話をしなくなり、親も「傷つけてはいけない」という気持ちで何かを聞くことは避け、日常会話もなくなっていきました。
親の依頼でニュースタートの男性スタッフが訪問すると、圭一くんは最初から普通に話をしてくれました。何度も訪問するうちに、楽しく雑談できるようになりました。3ヶ月の訪問の後、ニュースタートの寮へやって来ます。2年弱の寮生活の中で、資格を取り、仕事を見つけ、一人暮らしを始め、無事に圭一くんは自立しました。
圭一くんに、引きこもっていた当時、親にしてほしかったことを尋ねると、「今思えば、もっと早く押し出してほしかった」と答えました――。
「引きこもり」という言葉から連想されるのは、長期化し、中高年になり、いわゆる8050問題にまで行きつく、時には事件になるといった、暗いイメージでしょう。何とか引きこもり状態からは脱しても、親の経済援助などが必要で、自立は程遠いと思われている印象です。
ですが、私たちがこの約30年の支援活動の中で出会ってきた引きこもりの若者は、大半が「自立できる人」でした。実際に7割以上が、年によっては実に9割もの人が、自立していきました。
前著『コンビニは通える引きこもりたち』で説明しましたが、引きこもりは単なる状態像で、その詳細は本当に多様です。その多様さゆえに適切な支援につながっておらず、本来なら自立できる人の多くが自立できていない、結果、「引きこもりは自立できない」というイメージになり、ますます自立が遠のくという、悪循環に陥っているように思います。
本書には、圭一くんの他に、何人もの実例を載せています。まずは多くの引きこもりの人が自立できている事実を知ってください。
そして実例では、それぞれがどんな支援で引きこもりを抜け出したのかも書いてあります。「『信じて待つ』は3年まで」「『まず親子の対話から』という誤解」など、私たちが約30年の経験から得た支援の考え方を説明し、各テーマに合わせた実例を複数選びました。
前著『コンビニは通える引きこもりたち』が「引きこもりに関する本」であるのに対し、本書は「引きこもり支援に関する本」です。
経験を発信する当事者も増え、単に引きこもりを理解する段階は終わったと言えるでしょう。次はそういった方々に具体的に何をすればいいのか、支援の中身を考える段階です。本書がその参考になれば幸いです。