『制約をチャンスに変える アイデアの紡ぎかた』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
アイデアをカタチにする方法、自動車教習所のように基本から実践まで教えます!
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
車の運転を教わりたいときには、「子ども用のゴーカート乗り場」「F1カーのレース場」「自動車の教習所」のうち、どこへ行くでしょうか?
当然ながらほとんどの人は、自動車の教習所を選ぶはず。
楽しむことを目的としたゴーカート乗り場での経験も、速さが求められるF1カーのレース場も、日常で車を運転するうえでは実用的でないからです。「道路で運転したい」なら、自動車の教習所に行って交通標識を覚え、安全にドライブする方法を体系的に学ぶ必要があるということ。
『制約をチャンスに変える アイデアの紡ぎかた』(堤 藤成 著、ぱる出版)の著者によれば、同じことは「アイデア出し」についてもいえるようです。
「いろいろな方法を試してきたのに、アイデアをカタチにできなかった」のであれば、それは(ゴーカート乗り場のアドバイスのように)ただ「アイデアの数だけを増やすための発想法」ばかりを教わってきたから。
「自分にはクリエイティビティなどない」と自信喪失しているなら、「F1カーのレース場」のようなアドバイスを聞いてしまったことで、「自分には無理だ」と決めつけてしまっているだけかもしれないというのです。
自動車の運転では、「自分には自動車を運転する才能がない」と思う人はほとんどいません。
それは自動車の教習所で、きちんと交通標識などのルールを学んだり、隣にいる教官にハンドルを切るタイミングをなど注意点をひとつひとつ教わったりしながら、身につけていくからです。
もちろん免許を取るまでは、地味で泥臭いプロセスですが、教習を経て合格すれば、自動車を運転できるようになります。(14〜15ページより)
そこで本書において著者は、「自動車の教習所」のように、アイデアをカタチにするうえで気をつけるべき注意点や心がまえ、コツなどを伝えているわけです。きょうはそのなかから、第2章「四角い『目的のサイン』で、理想を描け」に焦点を当ててみたいと思います。
まず大切なのは、正しい方角を見つけ、次に目標となる地点を決めること。けれども、付属施設的なこだわりや趣味のような寄り道もまた大切なのだそうです。
【目的のサイン1】『経路』を決めると、方向性が見えてくる
たとえば、売上拡大のために進むのか、エコロジーなど地球環境を配慮して動くのか、ダイバーシティを推進したいのかなどなど。どんなアイデアを考えるとしても、まずは大枠としての方向性を決めることが重要だというのです。
なぜなら目指したい方向性が明確になれば、それを応援してくれる人や興味を持ってくれる人たちが増えていくから。
そうなれば、自分たち以外の人の力を借りることもできるようになるわけです。「ヒッチハイクをするために東京から『福岡に行きたい』と看板を持っていたら、途中で乗せていってくれる親切な人が現れるイメージに近い」と著者。
目指す方向を指し示すと、大義が明確になって支援してくれる人が見つかりやすいということ。
いきなり明確な方向を見つけるのが難しいのであれば、まずは「少なくともこの方向性ではないな」とピンとこない方向性を省きつつ、徐々に絞り込んでいくのでもOK。おおまかな方向性だけでも定めてみると、見える景色が変わってくるわけです。(75ページより)
【目的のサイン2】『地点』を決めると、目標が見えてくる
続いて考えるべきは、アイデアのゴール地点。目的地となる地点を定めれば、おのずとアイデアの目標がクリアになるというのです。
例えば、東京から西の方向へ進むと決めているだけでは、どこまで西にいけば達成なのかを判断することができません。
東京から西の方角に向かうとしても、そのゴール地点が、名古屋市なのか、大阪市なのか、福岡市なのかで、そのドライブの過酷さは変わるでしょう。
ゴール地点を定めない限り、今ゴールまでの道のりの何パーセントを達成しているのか把握できません。(79ページより)
ただし目標とするアイデアのゴール地点は、近すぎると小さな改善で達成できてしまうため、発想のジャンプが起きにくいようです。
かといってゴール地点が遠すぎると夢物語のように感じられてしまうため、本気で実現を目指す意欲が持てなくなる可能性があります。
だからこそゴール地点を設計するにあたっては、ちょうどいいポイントを探していく必要があるということです。(79ページより)
【目的のサイン3】『付属施設』を決めると、ワクワクが見えてくる
意外に忘れがちではあるものの、アイデアには遊び心が大切であると著者は指摘しています。そのため、目的地までの「付属施設」もまた大切なのだとか。ここでいう付属施設とは、ドライブでいえば道の駅やパーキングエリアなどにあたるようです。
ドライブでも目的地に一直線に向かうだけでは、しんどくなってしまいます。
あえて寄り道して一息ついたり、観光を楽しんだりといったメインの目的以外の楽しみの要素があることで、アイデア実現までチームのモチベーションを高く維持することができます。(81ページより)
また、目的地周辺の“おまけ要素”を書き出しておくだけでも、発想を広げるヒントになる可能性があるといいます。当然、仕事仲間や友人、コミュニティの力も欠かせないでしょう。
なお『クリエイティブ・スイッチ』(アレン・ガネット 著、千葉敏生 訳、早川書房)では、クリエイティブなコミュニティは、次の4種類のメンバーによって構成されると解説されているそうです。
① 一流の教師:あなたの職業や業界のパターンやイロハを伝授してくれる人物
② 相補的なパートナー:あなたの欠点を補うような特徴をもった人物
③ 創作の女神:あなたの最高の力を引きだすよきライバルになってくれる人々
④ 卓越したプロモーター:その名声をあなたに分け与えてくれる人物
(82ページより)
ドライブも、自分とは異なる個性を持ったメンバーと一緒に車に乗るからこそ、楽しい思い出がつくれるもの。アイデアを紡ぐ際にも、同じことがあてはまるわけです。(81ページより)
ビジネスパーソンを中心としながらも、あらゆる方に向けてわかりやすく「アイデアをカタチにする方法」を伝えている一冊。
アイデアの基本について触れられている一方、プロのクリエイターを目指す方に役立つ観点も盛り込まれているため、活用範囲は広そうです。
Source: ぱる出版