『ハンティング・タイム』ジェフリー・ディーヴァー著/『ラザロの迷宮』神永学著

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ハンティング・タイム

『ハンティング・タイム』

著者
ジェフリー・ディーヴァー [著]/池田 真紀子 [訳]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784163917580
発売日
2023/09/26
価格
3,080円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『ハンティング・タイム』ジェフリー・ディーヴァー著/『ラザロの迷宮』神永学著

[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)

どんでん返し 日米競演

 わたしがミステリーを読むとき期待するのは、裏切られること。SFでもファンタジーでも、想像を上回る何かを期待しているけれど、ことミステリーに関しては、どんでん返しや驚愕(きょうがく)のラスト、読者にしかけられたトリックがあると嬉(うれ)しくなってしまう。

 今回取りあげる2冊は、どちらも謎と技巧と企(たくら)みと驚きに満ちている。

 『ハンティング・タイム』(池田真紀子訳)はアメリカの巨匠の最新作。主人公を同じにするシリーズの一冊だが、これだけ読んでも全く問題ない。帯に謳(うた)われたどんでん返しの数は実に21。

 DVで服役した夫が釈放された。優秀なエンジニアのアリソンは、夫の復讐(ふくしゅう)から逃れるため娘と共に必死の逃亡を謀る。アリソンを追うのは、元刑事の夫ジョン。そしてアリソンを保護するために雇われた、シリーズの主人公、懸賞金ハンターのショウ。さらにはアリソンを殺そうとする謎の2人組。章ごとに視点人物が変わり、その度に前章が覆される。登場人物の印象が次々に塗り替えられ、まさか、の連続。とくに前半でわたしが反感を持っていたとある人物は、後半で拍手喝采ものの活躍を見せる。読み終わった瞬間、2周目に入りたくなる一冊。

 『ラザロの迷宮』もまた、二つの場面が交互に描かれていく。ローマ数字のパートの主人公は湖畔にある洋館を友人と共に訪れたミステリー作家、けれど謎解きゲームのはずが本当に人が殺されていく。そしてアラビア数字のパートは、若き女性刑事と本庁から来た元精神科医の刑事がパートナーとなり、血まみれで現れたAと呼ばれる男の事件を追う。けれどAは全ての記憶を失っていた……。

 したり顔で裏読みをしようとする読者すら手の内。最後に裏切られる快感を存分に味わえるだろう。

 日米大どんでん返し競演、あなたはどちらから読みますか?(文芸春秋、3080円/新潮社、1980円)

読売新聞
2023年12月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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