『食料危機の未来年表 そして日本人が飢える日』高橋五郎著

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食料危機の未来年表 そして日本人が飢える日

『食料危機の未来年表 そして日本人が飢える日』

著者
高橋五郎 [著]
出版社
朝日新聞出版
ISBN
9784022952127
発売日
2023/10/13
価格
979円(税込)

『食料危機の未来年表 そして日本人が飢える日』高橋五郎著

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

自給率向上・備蓄に懸念

 世界各地から訪日客が急増している。そのお目当ての一つは日本の食を楽しむということにあるだろう。それを可能にしているのは世界中から集まる豊富な食材の存在だ。我々国民も店頭に行けば大抵の欲しい食材は揃(そろ)っており、入手に苦労するといった事態は想像外だろう。

 だが日本の食料入手の持続可能性の危機に真っ向から斬り込み警鐘を鳴らすのが本書だ。戦後工業化を急いだ日本は、米以外は海外から調達するという政策を取ったことに加え、食生活の洋風化により減反政策が行われたこともあり、食料自給率は農水省による「カロリーベース自給率」でみると1965年の73%から2022年の38%へ大幅に低下している。さらに肉類について、その肥育に要する飼料のカロリーで計算した著者独自の算出法によると自給率は現時点で僅(わず)か18%にしかならないという。

 人類全体が健康に生活するために必要な年間穀物生産量は現在でもすでに8億トンが不足しているという。今後、気候変動の影響等で世界の穀物生産量は2039年をピークに減少に転じる一方、世界人口は59年に100億人に達する見込みで、14億トンの穀物が不足すると本書は予測する。日本はこれまでは強い経済力で不足する食料を世界中から調達することができた。だが経済力の長期低下傾向や円安が続き、世界の食料争奪戦の中で既に「買い負け」が起きているとも指摘される。戦争や災害などによるサプライチェーンの分断で輸入による食料供給が突然途絶したり輸入価格が急上昇したりするリスクも高く、このままでは国民の食の確保に苦労するということになりかねない。

 世界的に食料増産に向けた気候変動への対応、耕作放棄地の整備や食品ロスの改善、畜産物の代替品の活用などが必要だが、日本においては今後の情勢変化に備え低すぎる自給率向上へ向けた政策や備蓄増強が喫緊の課題だと本書は訴える。著者の危機感が伝わる一冊だ。(朝日新書、979円)

読売新聞
2023年12月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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