『をんごく』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『をんごく』北沢陶著
[レビュアー] 産経新聞社
4月に選考会が行われた第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞で大賞と読者賞、カクヨム賞の3冠を果たした著者のデビュー作だ。
大正時代の大阪・船場(せんば)。妻の倭子(しずこ)の死を受け入れられない画家の壮一郎は、巫女(みこ)に口寄せを依頼する。だが妻は成仏しておらず、度々姿を現すように。それは、壮一郎の知る倭子ではなかった。
幽霊でも会いたいと願う生者と、死んだことに気づかずさまよう死者の悲哀、人の欲望が生む呪い。怪談でありながら、壮一郎と巫女らが怪現象の真相に迫る謎解きの面白さがある。柔らかな船場言葉のやり取りも小気味いい。(角川書店・1980円)