堂場瞬一『野心 ボーダーズ3』(集英社文庫)を大矢博子さんが読む 著者初の警察チーム小説、朝比奈由宇のターンが来たぞ!
レビュー
『野心 ボーダーズ 3』
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堂場瞬一『野心 ボーダーズ3』(集英社文庫)を大矢博子さんが読む 著者初の警察チーム小説、朝比奈由宇のターンが来たぞ!
[レビュアー] 大矢博子(書評家)
著者初の警察チーム小説、朝比奈由宇のターンが来たぞ!
待ちに待った「ボーダーズ」シリーズ第三巻の登場である。
警視総監直轄の組織で、ひとつの部署では対応しきれない境界線上の事件や複雑な事件を担当する、警視庁特殊事件対策班(SCU)が舞台だ。多くの警察小説を世に出してきた堂場瞬一にとって、初のチームものである。
公安出身の謎めいたキャップ、結城(ゆうき)。特異な視覚を持つ八神(やがみ)。あらゆる武道に秀でた綿谷(わたや)。ITから車までメカならなんでも来いの最上(もがみ)。そしてチームの参謀と仕切りは、警視庁初の女性部長を目指すと公言している朝比奈(あさひな)だ。
一巻ではからずも朝比奈が口にするように、まさにアベンジャーズである。これまで視点人物は持ち回りで、一巻は八神が、二巻は最上が主役を務めている。捜査小説と並行して彼ら自身の生活や悩みが描かれるのも読みどころ。そして今回は朝比奈由宇(ゆう)のターンだ。
特殊詐欺にかかわっていたと思われる人物をショッピングセンター内で朝比奈が尾行しているとき、爆発事件が発生。彼女が爆風で気絶している間に、宝石店から貴金属が強奪されてしまう。
事件の行方が読ませるのはもちろんだが、本書の眼目は朝比奈の揺れにある。女性部長を目指すというのは決して大口ではなく、その才能があることは過去二巻で証明された。しかし本書では強盗事件を防げなかったことで監察の調べを受ける。自分の行動は正しかったと思いながらも、焦りを感じる朝比奈。
それが少しずつ軋(きし)みを生む。リーダーとは何なのか、どうあるべきなのか。チームものだからこそ書けるテーマだ。迷い、心身ともに傷つきながらも立ち上がる朝比奈をどうかご覧頂きたい。何よりこの手の話にありがちな「女の子扱い」が、チーム内にないのがいい。リーダー像にそもそも性差などないのだ。
お馴染みの食事シーンや別シリーズのキャラとの共演も楽しい。著者初の女性主人公である「警視庁総合支援課」シリーズの柿谷晶(かきやあきら)と朝比奈の女子トークが読めるとは思わなかった!
大矢博子
おおや・ひろこ●書評家