『アンリ・ヨコオ・ウッソー』横尾忠則画

　大きなパレットが浮かぶ不思議な風景画は、画家の横尾忠則さん（８７）によるフランスの画家、アンリ・ルソー（１８４４～１９１０年）の代表作の一つ「私自身、肖像＝風景」のパロディーだ。

　原画には、空中のパレットに見合う大きさの画家自身が中央にドンと描かれている。横尾さんは巨人のルソーを背景の縮尺に合わせて、中央下にちょこんと描き直した。

　先人の作品のイメージをしばしば創作の源泉にする横尾さんは、１９６７年から断続的にルソー作品を下敷きにした絵を描いている。最新作を含めた「ルソー・シリーズ」５８点を本書にまとめた。

　月夜の砂漠で眠る女性とそばにたたずむライオンの詩情あふれる光景は、女性がライオンに食い殺される惨劇に変わり、果物は切り取られた乳房に置き換わる。

　静穏で幻想的なイメージを転覆させ、この素朴派の巨匠に内在する「魔術的な怪奇的な要素」を引き出すことを試みている。横尾さん流のオマージュが詰まっている。（国書刊行会、３９６０円）（睦）

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