【「撮り鉄」鼎談(拡大版)】小学館ウイークリーブック『鉄道ペディア』刊行記念企画【後編】

特集・インタビュー

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小学館ウイークリーブック『鉄道ペディア』(全50巻)創刊を記念して、
同誌編集担当の元『鉄子の旅』編集長・江上英樹氏と、
凸版印刷株式会社「鉄道研究会」メンバーが鉄道の魅力と、
『鉄道ペディア』への期待を語り尽くす。
男たちのマニアックな会話が熱い!

高野洋一(凸版印刷)×後藤昭彦(凸版印刷)×江上英樹(『週刊 鉄道ペディア』編集)
撮影:柴田和彦
高野洋一(凸版印刷)×後藤昭彦(凸版印刷)×江上英樹(『週刊 鉄道ペディア』編集)

時間はあっても金がない時代、
夜行列車で10連泊という旅もした

高野 子どもの頃の思い出というと、線路際での友だち付き合い、いろいろな人たちとのコミュニケーションが楽しみでした。逆に、初対面の人に「何だこいつ」と思われないかと妙に緊張したりもして。もっとも、最近はネット社会のせいで、だいぶ変わってきてます。

後藤 あいさつのできない子、というか大人も増えてます。

高野 ぼくらの頃だと、駅まで車に同乗させてもらったら、後で必ず連絡を取ってお礼を伝えましたよね。大人になったら、同じようにしてあげようと思ったものです。

江上 ヒッチハイクもされましたか?

後藤 やってました。それでずいぶん助けられました。

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高野 時間はあってもカネがなかった時代は、夜行列車で10連泊とか。

江上 列車を宿代わりに深夜の途中駅で、戻りの夜行で折り返す。“何とか返し”ってありましたね。上り下りの夜行列車が行き違う駅での乗り換え。僕の記憶にあるのは、石北本線の急行「大雪6号」の“上川(かみかわ)返し”でしたか。

高野 そうですね。もちろん、夜行10連泊といっても、駅前銭湯で最低限の身づくろいはしましたけど。

江上 そもそも、駅前銭湯がなくなった。

高野 駅前旅館も。

江上 残念です。

後藤 下車印(途中下車の確認用に駅員が捺す小さなスタンプ)だらけになった周遊券を目一杯使って、急行列車の自由席の硬いボックスシートでの仮眠の繰り返し。いまは周遊券もほとんどなくなりましたね。

江上 駅のスタンプを集めたり。

後藤 “硬券入場券(厚紙製のきっぷ)走り”ってのもありましたね。ぎりぎりの停車時間にデッキを飛び出して駅舎の窓口まで走って、硬券の入場券を買って戻るとか。

高野 何にしても、国鉄の頃はよかったなって思いが、このごろつのりますね。

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江上 特に国鉄色というのか、車体の塗装はそれぞれの車両の形によく似合ってました。最近はいろいろ、各線区ごとのオリジナルみたいなものが増えてます。

高野 全否定です。もともと国鉄形車両の塗装って、設計時点で「この形だから、もっともふさわしいこの色に決めた」はずじゃないですか。それを崩すのはむしろ、見苦しい。

後藤 私も「思い付きでゴテゴテさせるのは、やめてくれよ」と思います。せっかくのいい車両が、おかしな色に変えられているのはたまりません。

江上 そのあたりと関連して、209系でしたか、「コスト半分」で「耐用年数も半分」だったかな? ……そんな感じの思想で設計された電車がありましたね。

高野 使い捨てカメラの「写ルンです」になぞらえて「走ルンです」といわれた。

江上 デザインも何だか家電製品みたいで、安っぽい。

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後藤 逆に、最近はやりの“レトロ風”車両というのもいやです。鉄道好きな人は“風ふう”を嫌うんですよ。

江上 ちょっと話はずれますが、「ALWAYS 三丁目の夕日」という映画をご存知ですか?阿部秀司プロデユーサーの作品です。冒頭、荒川鉄橋から上野駅にかけてのシーンで、「シロクニ(C62形SL)」の22号機がホームに入ってくる。すべてCGなのか実写合成なのかは分かりませんが、それを観て「この映画を作った人は本物だ」と、感動しました。

高野 私も観て、同じことを思いました。映画でもドラマでも、SLっていったら大井川鐡道でロケしたC11形か、せいぜい山口線のC57形1号機ばかりじゃないですか。それに比べて、真剣に取り組んでいるなあと。

江上 ホームのシーンは当時の梅小路蒸気機関車館(現・京都鉄道博物館)に保存されていた2号機を変身させたものと聞いていますが、所属の区名札まで「尾」(旧・尾久機関区)にするなど、どこまでこだわるの? という感じです。「鉄子の旅」に携わっていた時には車両や周辺の施設・設備の描き方について、かなりうるさく指示を出したのです。けれど一般読者向けの作品だと、なかなかそこまではできません。ストーリーの流れの中ではその必要もないとは理解しつつ、申し訳なく思ったこともありました。関連してお尋ねしたいのですが、「撮り鉄」というある意味、フォト・クリエーターでもあるお二人にとって「この1枚!」があれば、教えて頂けますか?

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後藤さんが撮影した興浜北線の斜内山道。
見えにくいが、写真中央に列車が走っている。

後藤 私は北海道・興浜北線(こうひんほくせん)の斜内山道(しゃないさんどう)(浜頓別~北見枝幸間、1985年に廃止されたローカル線が小さな岬の中腹を迂回する撮影ポイント)です。3月、雪の中をよじ登って。

江上 冬に、あそこを登った!

後藤 斜面に延々と自分の足跡が残ってました。単行のキハ22でしたが、遠く流氷が見渡せて。忘れられない光景です。

高野 私は、「FASTECH360S(東北新幹線E5系「はやぶさ」の試作車)」の“ネコ耳” の上昇走行シーンです(屋根上の空気抵抗ブレーキで、上昇時の形状が似ている。上昇時の形状が似ている。日中の試運転では極めて珍しい)。

後藤 撮れた!

江上 それはすごい!

高野 「FASTECH360S」が昼間に併結して走るのはその日が最後だと聞いて、水沢江刺駅にポイントを定めてホームで待っていたら、屋根の上に“ネコ耳”を立たせた状態で疾走して来た。鳥肌が立って、シャッターに添えた指から手まで震えましたね。

江上 耳下げるな、下げるなと?

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高野さんが撮影したFASTECH360S、奇跡の〝ネコ耳〟ショット。

高野 念じました。水沢江刺駅を選んだのはまったくの偶然なんですが、仲間からは「ここで上げて来るのを知っていただろう。知らせもせずに抜け駆けしやがって」と、ずいぶん責められました。

江上 最後になりますが、今度発刊される『鉄道ペディア』に、期待・要望されることがありましたら。

高野 少年時代、『鉄道ファン』や『鉄道ジャーナル』といった専門誌から得た知識はもちろん多かったのですが。「学ぶ」という点では、『鉄道ペディア』と同じ小学館から当時、出版されていた『コロタン文庫』の鉄道シリーズに拠ったところが多かったので、その大人版であってほしいと思います。写真がたくさんあって、トリミング一つについても他誌に負けないものであってほしい。歴史的な事象を積み重ねて「次号が楽しみ」と思えるような存在であってほしいと。

後藤 写真のセレクトに注目したい。さまざまな媒体に掲載された「かっこいい写真」で夢を膨らませてきたので。人とのかかわりを前面に出した、たとえば農家のおばさんと列車が絡んだ写真があってもいい。「形式写真」が並ぶページと「旅情を感じさせる」写真、それぞれが“ふさわしい”シチュエーションなら、両方あってしかるべき。さまざまな角度から、鉄道を切り取ってほしいと思います。

江上 ご期待に応えられるよう、がんばっていきたいと思います。今日は長い時間、ありがとうございました。

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高野洋一(たかの・よういち)
1971年、神奈川県川崎市生まれ。映像企画部勤務。好きな路線は、東海道本線、京浜急行。好きな車両は、EF58、旧型国電、京急600形(2代)。鉄道愛好歴、おそらく40年(物心ついたときから)。

後藤昭彦(ごとう・あきひこ)
1959年、埼玉県熊谷市生まれ、深谷市育ち。出版印刷部門営業担当。好きな路線は岩泉線(2014年春に廃線になってしまったが)、中央本線。好きな車両は、キハ22、旧型国電。鉄道愛好歴、半世紀以上。

江上英樹(えがみ・ひでき)
1958年、神奈川県藤沢市生まれ、大宮市(現さいたま市)育ち。1982年、小学館入社以来漫画編集者として働き2014年退社。ブルーシープ㈱を立ち上げ、今日に至る。路線を問わずスイッチバック命。

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◎詳しくはこちら >> 

【刊行予定】
2016年2月16日火曜日創刊。2号は3月1日発売。以降毎週火曜日発売。
【価格】
各巻680円(8%消費税込)
*創刊号は、専用3穴バインダーが1冊ついて、特別価格500円(8%消費税込)

Photograph:柴田和彦

小学館 本の窓
2016年3・4月合併号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館

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