日本がステルス機「三菱X-2」を開発するワケ

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2016年の航空自衛隊による緊急発進(スクランブル)は1189回でした。中でも中国機に対する緊急発進の回数は842回と圧倒的で、前年比で81%増と1991年の統計後では最多を記録しています。緊急発進で用いられるのが戦闘機ですが、航空自衛隊はF-4EJ改の後継としてF-35の装備を決めています。そんな中、防衛装備庁は2016年4月、「三菱X-2」を先進技術実証機として初飛行させました。このX-2は将来的に国産戦闘機の開発につながる可能性のある機体として注目されています。そこでここでは、このステルス機・三菱X-2とはどんな機体なのか、その開発にはどんな意味があるのかを、『知られざるステルスの技術』の著者で、航空評論家の青木謙知氏に語っていただきました。

三菱X-2とは何か

 2016年4月22日に初飛行した三菱X-2は、国産初の自衛隊向け技術実証機です。この技術実証機の目的は、将来の戦闘機に必要になると思われる各種の新技術を、実際の飛行評価試験を通じて見きわめ、また「必要なものを日本で開発できるか」などを確認することにあります。

 このため、X-2は一見すると戦闘機に見えますが、実用戦闘機よりはかなり小さく、今の機体規模ではレーダーなどの電子機器や、各種の兵器を搭載するスペースはありません。これらも実際の航空機を使っての開発作業は必要ですが、地上だけでできるもののありますし、他の戦闘機などを活用することも可能です。

 しかし、X-2で重要なテーマに挙げられているステルス性(レーダーに探知されにくい技術)や新世代の戦闘機用エンジン、推力変向式排気口による高運動性などは、既存機を改造・改修して試せるものではありませんから、X-2のような技術実証機が必要になったのです。

高度な機密は同盟国にも教えない

 これまで、日本にこのような航空機がなかった大きな理由は、それぞれの時代における戦闘機用の新技術が、それほど複雑ではなかったからです。航空力学にしても電子機器技術にしても、これまでの理論や技術の積み重ねの延長上にあり、比較的簡単に理解ができました。また、日本は、アメリカの各世代の主力戦闘機をライセンス生産できたので、そこから学び取れることは多かったのです。

 しかし、今日の最新世代である第5世代戦闘機や、それに続く将来の戦闘機では、あらゆる技術が大きく飛躍すると考えられていて、単に経験と実績だけでたどり着けるものではなくなると考えられています。加えて、これらの新しい高度技術は、各国が厳しい管理態勢を敷くようになり、公式・非公式を問わず、入手が困難になっています。

 アメリカの高レベルの同盟国である日本が、ロッキード・マーチンF-22ラプターの導入を熱望し、販売を求めたものの、アメリカが最後まで首を縦に振らなかったのは、その好例です。日本は、F-15まではごく一部の電子戦装置以外は技術供与が認められ、レーダーやエンジンも含めて全体をライセンス生産できました。しかし今、新戦闘機技術に関する状況は、その時代とは様変わりしました。

 このような機密管理の厳しい高度技術の1つが、ステルス性です。基本的には、自身に照射されたレーダー電波を発信源に戻さない技術であり、戻らないレベルが高ければ、レーダー反射断面積(RCS)が小さく、ステルス性高いということになります。これは、機体形状の工夫や機体工作上の処理、特殊な内部構造や素材、さらには機体コーティングなどで達成できることは知られています。

 しかし、何をどのように取り入れて、それらをどう組み合わせていけばRCSを極小化できるのかは、各国で高レベルの機密扱いになっています。ですから、そのデータを取得し、将来開発することになるかもしれない新戦闘機に適用するには、独自に技術開発と研究、そして試験を行わなければならないのです。

技術・ノウハウの伝承を途絶えさせてはいけない

 さらに、実用機ではないものの、X-2のような高レベルの試験機を開発・製造することは、日本の航空技術界にシステム・インテグレーションを行う機会をもたらすことにもなります。

 戦闘機に限らず、近年の航空機は高度技術を活用した複雑なシステムで構成されています。これらをうまく機能し合うようにしながら、1つの航空機にまとめ上げるのがシステム・インテグレーションです。各種技術の開発力とともに、一体化させて機能するようにさせられる能力の習得が必要であり、X-2の開発はそのチャンスをもたらしています。システム・インテグレーションについては、一世代前の戦闘機になりますが、三菱F-2の開発においても重要なテーマとされ、当時の開発陣はその技術などを習得しました。

 ただ、こうしたノウハウを伝え続けていくことは難しく、常に伝承が可能になる機会を設けるのが最も効果的です。X-2は、この伝承を可能にする存在であり、ハード面だけでなく、知識・経験などといったソフト面でも、日本の航空産業界にとって重要な役割を果たすものです。

 防衛省や航空自衛隊は、独自に将来の戦闘機像を描いています。またアメリカやヨーロッパなどでも、F-22やF-35などに続く第6世代戦闘機に関する研究が当然進められていますが、現時点ではそれがどのようなものになるのか、まったく予測が付きません。ただ、使われる技術が逆戻りすることはありませんから、第5世代戦闘機の重要な要素である高いステルス性やセンサー融合、ネットワークへの接続性は、間違いなくより高いレベルのものとなって導入されます。

 今日、パイロットに各種の情報をもたらすセンサーは、レーダーと電子光学装置(赤外線、レーザー、TV)が用いられています。これらに代わるものが登場する可能性はきわめて低いのですが、それらの能力向上は当然あり得ます。攻撃用センサーの情報と防御用センサーの情報を、今以上に融合できるようになれば、パイロットの状況認識力はさらに高まり、より効果的な作戦行動と、高い生存性を同時に得られるようにもなるでしょう。こうしたセンサー関連の研究や試験は、X-2では行われず、X-2の作業と並行して別途進められています。

 防衛省ではX-2について、約2年間の飛行試験を行って、使われている各種技術について評価し、今後の方向を決めていくことにしています。

SBCrOnline
2017年3月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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