歴史を本当に動かしたのは「お金の流れ」だ

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現代の経済社会には欠かせない「お金」。人類は長年それを巡って、さまざまな争いを起こしてきました。歴史的に見れば、貨幣は古代エジプトやメソポタミアで制度的に確立。中世に入り、「お金」の重要性は増し、現代のような銀行業が確立しました。そして近世も近代も現代も「お金」が重要であることは歴史的に見ても頷けます。長年、予備校で世界史講師として数多くの受験生を合格へ導き、現在は歴史研究家として精力的に執筆活動を行っている関 眞興先生に、『「お金」で読み解く世界史』(SB新書)の刊行にあたって、「お金」の世界史における役割を語っていただきました。

いつでも「お金」は人間を悩まし続けているやっかいなモノ

 個人的な昔話から始めます。現役を離れてかなり長い時間が経ってしまいましたが、私は長く予備校に奉職していました。毎年2月から3月は入試問題の解答速報作りなどで悪戦苦闘していたことが懐かしく思い出されます。

 最近の入試問題については門外漢になっていますが、大学のあり方そのものは大きく変わっているようです。現在の大学は一部を除いて、門戸は大きく開放されるようになっていて、受験生にとっては売り手市場のようです。

 大学で高等教育を受けられるということは大変いいことなのですが、同時にそれとは次元が違う、深刻な問題が出てきているのが気になります。

 かつて「大学は出たけれど」という言葉がありました。近年では「就職氷河期」という言葉と相通じるものといえましょう。大学は出ても就職先がないということなのですが、現在では、大学には合格したが入学金や授業料が払えないので入学を辞退、諦めざるをえない若者が多いと聞きます。仮に奨学金を貰っても。卒業後、返済が何年にもわたり、加えて就職の氷河期にでも当たってしまえば、返済そのものができなくなってしまうという厳しい現実です。

 それが高校入試においてもみられるというのは暗然とした気持ちにさせられてしまいます。春秋に富んだ若者が「お金」の問題で悩まなければならないのは、何とも悲しいことだと思います。

 もちろん高校生・大学生だけではなく、「お金」は、人間を悩まし続けている、厄介なものです。思いつくままでも「時は金なり」「銭の切れ目が縁の切れ目」「悪銭身につかず」「一円を笑う者は一円に泣く」「江戸っ子は宵越しの銭は持たない」「早起きは三文の得」などなど限りがありません。外国人の、お金に関する箴言(しんげん)の類にいたっては一冊の本では収まりきらないのではないでしょうか。

 そしてそれらはいずれも「お金」と「人生」の機微を実に見事に説明しています。

 たとえば「自分のポケットの小銭は、他人のポケットの大金に勝る」というのはいかがでしょう。怖いのは、他人のポケットの中のお金を、自分のポケットに移したくなる欲求が時に大きなものになることです。

モノを求めて「お金」が動く、「お金」を巡って世界が動く

 人間は生活の必要上から「お金」を発明しました。「お金」というものは大変に便利なもので、そのお陰で、日常生活は言うまでもないことですが、全く知らなかった世界との交流が実にスムーズに行われるようになります。

 現代世界で大きな問題になっているイスラム教ですが、8~10世紀ころのイスラム教徒は、世界経済の中心で重要な役割をはたしていました。当時ヨーロッパはまだ貧しい状態でしたし、インドも混乱状態でした。中国も唐帝国の繁栄が終わり。混乱期に向かっていました。そのような時、イスラム教徒は中国からヨーロッパ、アフリカからロシアという世界の東西南北の中心に拠点を持って各地を結びつけていたのです。新大陸はまだ入っていませんが、ユーラシア大陸とアフリカ大陸はイスラム教徒によってグローバルに結び付けられていたのです。

 もちろん歴史の始まりから「お金」が存在したわけではありません。

 物々交換の時代が長く続き、人類の歴史5000年として、ちょうどその真ん中に当たる紀元前6世紀ころに初めて貨幣が鋳造されました。その便利さを知った人類は、それを各地に伝えていきます。各地で貨幣が鋳造されるようになりますが、その伝播の早さは、便利さの証明であるとともに、それだけ商品流通のネットワークが広まっていたことを説明していることにもなります。

 しかしながら、ここでもう一つ考えなければならない問題が出てきます。人間の欲望です。欲望の対象は貨幣そのものにもなりますが、同時に、貨幣との交換で得られる商品=モノも大きな意味を持ってきます。

 世界には、人間の欲望を刺激するさまざまなモノが存在します。普通に手に入るものならともかく、希少価値のある珍しいモノになると欲望はさらに大きなものになります。戦争というのはそれを求める、欲望を満足させる対立ということもできるのです。

「お金」に励まされて人間は歴史を作ってきた!

 1万年ほど前、人類は農耕を始めました。数百万年も続いてきた狩猟採集の生活から、自分自身で食料を生産できるようになったのです。「食料の生産革命」という言葉にふさわしい人類史上の重大変革期になります。

 これを逆説的に見てみますと、農業を始めることによって、直接的に手に入れることのできるモノは穀物になりました。問題は、穀物だけでは人間は生きていけないのです。動物の家畜化も始まりますが、人間の欲望は、穀物と動物だけでない、衣料や道具など多岐多彩なものを求めるようになります。洞窟生活に代わって家を建てるようになり、そこに出てきた指導者(支配者)は神殿・宮殿の類を要求するようになります。

 このようにして複雑な社会が出来あがってくるのですが、何と言ってもモノの多様性が問題になります。この多様なモノに如何に対応するかが問題になります。

 そして、人間の英知は、「普遍的な商品(モノ)」とも言える「お金」を生み出したのです。そしてその「お金」の材料として、金や銀といった貴金属が使われるようになりますが、その材質そのものが普遍的、つまり変質しないところに注目されたからでしょう。

 ここで再び人間の欲望が出てきます。人間の欲望を満たすモノは様々ですが、普遍的なモノとしての「お金」は、何にでも交換できるという意味で特別な魅力を持って出てきます。それをたくさん持つことが喜び、さらには目的になってきてしまうのです。こうなると、人間は「お金」をたくさん集めることが目的になります。もはや「お金」に支配されているとしかいいようがありません。

 とはいうものの、お金が動いている間は、経済活動は健全であったといえるかもしれません。どんな時代でも、人間取り巻く環境は過酷なものでしたが、そのような中でも「お金」は、人間に希望を与えてくれ続けてきたのかもしれません。

 希望が具体化されたものが「お金」と考えると、人間とはこのようなものかと納得させられます。ほどほどの量で感謝する人から、巨大な富を得ても満足できない人、なかなか希望の実現ができない人、そのような人々が入り混じって、歴史を作り上げてきたのではないでしょうか。

SBCrOnline
2017年4月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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