【聞きたい。】新宮晋さん『太陽といっしょ』『旅する風』
[文] 渋沢和彦
■地球のすばらしさを絵本で
「彫刻制作には何人もの人が関わりますが、絵本は1人でできるから楽しんでやりました。子供から大人まで読んでほしい」
風など自然の力で軽やかに動く彫刻作品で知られ、世界で活躍する新宮晋さんが、先ごろ2冊の絵本を手がけた。
1冊は『太陽といっしょ』(発売中)。自転車で野を駆け抜け、森の中で遊ぶ子供たち。気がつくとあたりは霧に包まれていた-。だれもが体験したことがありそうな世界だ。「大人には懐かしいという気持ちになってもらえれば」
時間を忘れ、野山で遊んでいた子供時代を思い出して書いたという。太陽そのものは登場しないが、鮮やかな色彩と影が描かれ、太陽が大切な存在であることを思わせる。
もう1冊はポップアップ絵本『旅する風』(近日発売)。本を開くと、次々と不思議な形が飛び出してくる。朝、目をさました風は、木に当たると音を響かせ「葉っぱのコーラス」となり、砂漠を通ると風紋を作り出す。まさに風が本の中を吹き抜けているようだ。
彫刻が本職だけに、紙の立体造形は本格的。抽象的な赤など鮮やかな色彩のリングでオーロラを表現するなど美的だ。子供だけが独占するのはもったいない。大人も十分楽しめる。
「風の彫刻家」として知られる新宮さんの作品は世界各地にある。かつて、風で動く彫刻を、モンゴル草原や北極圏にあるフィンランドの凍結湖といった特異な自然の6カ所に、1年半かけて巡回するプロジェクトを実施。作品とともに現地に滞在し、土地に暮らす人たちと触れ合い、多様な環境が存在する地球に向き合ってきた。自身の体験が絵本に生かされている。
「世の中が平和で煩わしいことが少なくなればいいという思いで絵本の世界に足を入れています。絵本を通して地球のすばらしさを少しでも分かってもらえれば」(太陽といっしょ/クレヨンハウス・2100円+税)(旅する風/BL出版・3700円+税)
渋沢和彦
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【プロフィル】新宮晋
しんぐう・すすむ 昭和12年、大阪府生まれ。東京芸大絵画科卒業後、イタリア留学。滞在中に彫刻を始めた。61年、日本芸術大賞受賞。『いちご』など多数の絵本がある。