中江有里が永六輔、田部井淳子、ゴッホ、3人の生き方に迫った3冊を紹介

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 12月13日放送のNHK総合「ひるまえほっと」に女優で作家・書評家の中江有里さん(43)が出演し、月に1度の「ブックレビュー」コーナーで3冊の本を紹介した。

 この日中江さんが紹介したのは、いずれも著名な人物を題材とした以下の3冊。
『淳子のてっぺん』唯川恵[著](幻冬舎)
『ゴッホの耳―天才画家 最大の謎―』バーナデット・マーフィー[著](早川書房)
『永六輔 時代を旅した言葉の職人』隈元信一[著](平凡社)

■命がけで登山をする意味とは

『淳子のてっぺん』は登山家の田部井淳子さんをモデルにした長編小説。42年前に女性として初めてエベレスト登頂に成功した田部井さん。そこに至るまでの困難や家族の愛が物語として描かれる。

 中江さんは「ドキュメンタリーをベースにしたフィクションなんですけど、ものすごく詳しく」田部井さんの人生が描かれていると解説。また、山を登ることは生きることにつながっている、と感想を語り、登山の「喜びも苦しみも体感できるような」本だとコメントした。タイトルにある「てっぺん」については「山って登るだけで終わるのではなく、下らなければいけないわけです。だからたぶん下りた所にてっぺんがあるんですよ。生きて帰ってこそ」とそこに込められた意味を推し量った。

■ゴッホが耳を切り落とした理由とは

『ゴッホの耳―天才画家 最大の謎―』は画家のゴッホの知られざる一面に迫ったノンフィクション。1888年ゴッホは自らの耳を切り落とした。その衝撃的な事件に新資料を通して迫った一冊だ。

 著者のバーナデット・マーフィーは専門的な研究者ではない。「暇つぶし」ではじめたゴッホの片耳切り落とし事件にハマっていった、いわば素人だ。しかし執念の調査で新資料を見つけ出し、切り落とされた耳の行方を追い、さらに動機についても迫っている。

 中江さんは「専門家だとちょっと見落としてしまいがちな所を、この方は創造力と行動力と、本当に時間と手間を全く惜しまない。もうだめでもだめでも突き進む。その精神!」と驚き、「(気の遠くなるような作業をやりとげ)本に著されて、こうやって遠くの日本でも読める。奇跡ですよね」と著者の偉業を讃えた。また「ゴッホの感受性が豊かで、優しい部分とか、そういった部分もこの本で初めて知ることもありました」と狂気的なイメージで語られがちなゴッホの別の一面も知ることが出来ると薦めた。

■心のなかで生き続ける

『永六輔 時代を旅した言葉の職人』はマルチな活躍で放送、芸能史に名を刻んだ永六輔さんの評伝。新聞記者として最も身近にいた著者が、永さんとの交流や過去のエピソードをもとに著した一冊だ。

 永さんの実家はお寺。そこで永さん自身も「旅する坊主」を名乗っていたという。中江さんは同書の中から「旅に出るということは、人に会うことだと思う。何よりも生きている人間はすばらしい、美しい、おもしろい、そして悲しい」という永さんの言葉を引き、「旅する」の意図を解説した。そして「『悲しい』ってところが、すごく人間の陰影みたいなものを感じさせてくれるなと思いました」と永さんならではの表現に敬意をあらわした。

 中江さんは最後に「人は死んだときが死じゃない。その人の話を誰もしなくなったときがその人は死んだということだと思う。死者を覚えている人がいるかぎり、その人の心の中で生き続けている」という永さんの言葉を紹介し、「この3冊を通して、この人の生きざまに触れると、まだ私の中で生きているっていうことを実感するんですよね。声がなくても対話してるような気持ちにもなります」と締めくくった。

「ひるまえほっと」はNHK総合で月曜から金曜11:05からの放送。「ブックレビュー」コーナーは月に1度放送される。

Book Bang編集部
2017年12月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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