書店はワンダーランド? 書店員さん・金原瑞人さん・ひこ・田中さんのおすすめYAはこれだ!

イベントレポート

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 春は自分を取り巻く世界が、一気に広がる季節。特に多感な中高生は、だれかのことを気に掛けたり、人から見られる目に敏感になったりと、大きく心が揺れ動きます。人生の意味を考えたり、無茶に見えることにも挑戦してみたり、時には誰にも言えない秘密の恋をしたり……今10代を過ごしている方はもちろん、大人となった方々も一度は経験があるのではないでしょうか。

 そんな10代(中高生)の読者のために、過去7年間に刊行された本の中から、計150冊を選んだブックガイドが『今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150!』シリーズです。27名の「本のプロ」が“いま読んでほしい”本をそれぞれ選書し、熱い推薦文と共に紹介しています。その最新作『今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150! 2』の刊行を記念して、監修を務めた金原瑞人さんと、ひこ・田中さんのトークショー&サイン会が、東京・丸善 丸の内本店で3月23日に開催されました。

『神様のみなしご』川島誠[著]角川春樹事務所
『神様のみなしご』川島誠[著]角川春樹事務所

 今回のイベントでは、金原瑞人さん、ひこ・田中さんに加えて、ブックガイドの執筆者の中から、書店員の森口泉さんがトークゲストとして登壇。満席となった会場のお客様から温かい拍手で迎えられ、和やかな雰囲気のなかイベントはスタートしました。

 まず皆さんがお話してくださったのは、『今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150! 2』に掲載された中から、特にお薦めしたい1冊について。トップバッターの金原さんは、川島誠さんの『神様のみなしご』(角川春樹事務所)を選ばれ、「『神様のみなしご』は孤児院の話です。非常にリアルで、まさにYAこうあるべしという、ガツンと川島さんらしいスタイルでつづられた連作短編集です」と紹介されました。

 金原さんは「海外の児童文学には孤児が登場する作品がとてもたくさんありますが、日本文学ではベストセラー、あるいは読み継がれている作品があまりないように思います。そんな状況の中、川島さんの作品は新しい形で日本の孤児を描いていて、ぜひ薦めたい1冊です」と語ってくださいました。

『エレナーとパーク』レインボー・ローウェル[著]辰巳出版
『エレナーとパーク』レインボー・ローウェル[著]辰巳出版

 一方ひこさんは、アメリカの作家レインボー・ローウェルの『エレナーとパーク』(辰巳出版)を選出。ひこさんは、「これは韓国系アメリカ人の男の子と、家庭内暴力で苦しんでいる女の子が、出会い愛を深めていく物語です。彼女のお父さんに関係を知られると大変なことになるので、ずっと二人は関係を隠し通そうとする。その中で、二人はすれ違いや、あらゆる問題に直面していきます」と、作品を説明してくださいました。

 また、ひこさんは、「この本はすごく典型的な、若者の恋愛小説です。でもすごいなと思うのは、『好きなんじゃない、エレナーがいないとダメなんだ』といったベタな恋愛のセリフがたくさん出てくるところ。ベタなセリフで恥ずかしさもあるんですけど、それがスッと自分の中に気持ちよく入ってくる。物語に力があるので、読んでいて嘘っぽさや浮いている感じがないんですよね。YA世代や、YAを好んで読む読者にはシャイな人が多いと思いますが、『好きだ好きだ』『きみなしではダメなんだ』って言ったっていい。これを読んで、そんな恋愛をしてもらいたいと思って選びました」と選出理由を教えてくださいました。

『少年の名はジルベール』竹宮惠子[著]小学館
『少年の名はジルベール』竹宮惠子[著]小学館

 続いて、MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店で児童書を担当されている森口さんは、竹宮惠子『少年の名はジルベール』(小学館)をお薦め。「この本は、竹宮惠子先生が自身のことを振り返って描いた作品です。竹宮先生が、闘志あふれる若かりし頃に、少女漫画の世界に革命を起こしたこと。そのことをここまでリアルに覚えているのかというぐらい、詳細に振り返っていらっしゃいます」と、まず紹介してくださいました。

 さらに森口さんは、「日本では漫画が浸透していて、受け入れられて、すごく力のある文化になっていると思いますが、その源流を知ってほしいんです。子どもたちが読んでいる新しい作品の中にも素晴らしいものはたくさんあると思います。でも、竹宮先生の情熱あふれる作品と生き方を、ぜひ知ってほしいと思いました」と語ってくださいました。

 そしてお話は、今イベント開催のきっかけとなった『今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150! 2』へ。森口さんからこの本を企画した理由を聞かれると、ひこさんは「『2』が刊行された理由はすごくシンプルで、『1』が出たからです」と、おちゃめな回答を披露してくださいました。しかしその後ひこさんは、「ブックガイドはやっぱり持続して出さないといけない。1冊だけの場合その本が古くなると、旬が過ぎて役に立たなくなる。そうではなくて定期的に出すことによって、以前に刊行されたブックガイドも新刊とつながる形で使えるようになるのではないか。そう思っていたところ、今回『2』を出すことができてよかったです」と真相も明かしてくれました。

 森口さんはブックガイドの効用として「児童書の担当になった当初、名作も有名な作家もなにも知らない中、たくさんのブックガイドを読みました。知識がゼロのところからジャンルを知っていくのに、ブックガイドが唯一の頼りでした」と体験を語ってくださいました。

竹宮惠子さんの『少年の名はジルベール』(小学館)を薦めるMARUZEN&ジュンク堂書店梅田店で児童書を担当されている森口さん
竹宮惠子さんの『少年の名はジルベール』(小学館)を薦めるMARUZEN&ジュンク堂書店梅田店で児童書を担当されている森口さん

 また、ひこさんは「僕らはYA本のベスト150を選んだわけではなくて、執筆者それぞれが好きなように好きな5冊を選んでいます。ですので、この本を読み進めても、半分以上が自分には合わないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。でも、それでいいと思うんです。自分の感性にピンと来た本を読んでいただければ幸いです」ともお話してくださいました。

『完璧じゃない、あたしたち』王谷晶[著]ポプラ社
『完璧じゃない、あたしたち』王谷晶[著]ポプラ社

 さらにお話は森口さんの提案で、『2』が発売された2017年11月以降の本で、同シリーズに入れたいと感じた作品”を、金原さんとひこさんに挙げていただくことに。金原さんは、「絶対に入れたい」と王谷晶『完璧じゃない、あたしたち』(ポプラ社)を挙げ、次のように語ってくださいました。

「『完璧じゃない、あたしたち』は、女の子同士のお話だけで全28編が収録された短編集です。本当にさまざまな女の子同士の話が詰め込まれていて、僕が中でも好きなのは、女の子の大親友が電話口で死にそうな声をしているから慌てて彼女の元へ駆けつけたら、バスタブの中で人魚になって干からびかけていたというお話。主人公の女の子は、何とかしたいという気持ちで、人魚の女の子を抱えて車に乗せて、水のあるところまで連れていくんです。他にもシリアスな話もあればSFっぽい話もあって、じつにバラエティに富んでいるのですが、テーマは一貫して“女の子同士”なんです。どの作品も色がそれぞれ変わり、アプローチも違う。面白いのでぜひ読んでいただきたいです。あとはマーサ・ナカムラの詩集『狸の匣』(思潮社)もおすすめですよ」

『木の中の魚』リンダ・マラリー・ハント[著]講談社
『木の中の魚』リンダ・マラリー・ハント[著]講談社

 そしてひこさんは、アメリカの作家リンダ・マラリー・ハントの『木の中の魚』(講談社)を選出。「ディスレクシア(読字障害)の女の子の話です。最近ではよく見掛ける題材です。そのあたりが児童書やYAというのは面白くて、ある題材がひとたび注目されると、一気にたくさんの作品が訳されるんです。そのためディスレクシアもありふれた設定になってしまったといえばそうなのですが、この『木の中の魚』の主人公は字が読めないことをひた隠しにしたいと望んでいる子です。先生に反抗しますし、クラスでは教科書が読めなくて何も答えられないから頭の悪い子だと思われている。物語の後半ではいかにその障害を克服していくか描かれていくんですけど、前半でいかに自分の障害を隠し通せるかを微細に描いているところがすごく新しくて、面白く感じました」と選出した理由を話してくださいました。

 軽快なトークも交えながらイベントが進み、話題は『今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150! 2』に掲載された作品の中から、自分でも読みたくなった作品に。森口さんが、「斉藤倫さんがお薦めする、川上弘美『神様2011』(講談社)の推薦文がとても素敵で思わず購入しました」と明かすと、ひこさんは東直子さんがお薦めするジャンディ・ネルソン『君に太陽を』(集英社文庫)を挙げました。ひこさんは「たまたま未読で置いてあったんですけど、『2』を読んだおかげで読んでなかったことを思い出しました」と、笑いをまじえて語られました。

 一方、金原さんは次のようにお話してくださいました。「僕は『2』の中でジャンル丸ごと、「5章 社会と向き合う」の中の「◆戦争を知る、災害を語る」を改めて読みましたね。『チェルノブイリの祈り』(岩波現代文庫)など、いくつかは読んでいるのですが、それ以外はぽっかり抜けていると感じて、何冊か購入しました。『16歳の語り部』(ポプラ社)も面白そうだと感じましたし、推薦文を読んで購入した『戦争を取材する』(講談社)も、ズバリタイトルそのものの内容で面白かったですね。それから読みたいと思っていたのに、まだ読んでいなかったという本もたくさん入っていました。たとえば『ゼロからトースターを作ってみた結果』(新潮文庫)など、これはやはり読まなくてはいけないと思わされました(笑)」

 その後、森口さんが書店員であることから、金原さんとひこさんが普段書店ではどのように本をチェックしているのかについてトークが展開され、金原さんはアメリカやイギリス、オーストラリアなどの書店でまとめて本を購入されていること。ひこさんは書店を“ワンダーランド”と称し、くまなく売り場を回る様子や、資料として小中学校の教科書を全社分まとめて購入していることを明かしてくださいました。

  トークは、YAの定義やその世代に関する話へ。親と子どもたちとの壁は日本同様、アメリカでも薄くなっているという研究結果や、YA小説は児童書では間に合わない隙間を埋めるために生まれた。つまり、子どもが大人を見習い、成長して大人になっていくというモデルだけでは、世代のギャップを埋めることができなくなったのではないかとの分析が、金原さんとひこさんにより述べられました。

 最後に会場からの質問に答えます。会場に来ていた小学生の女の子から読書量などについて聞かれると、金原さん、ひこさん、森口さんは、それぞれに仕事用の本や私生活で読む本について回答してくださいました。また森口さんは、質問してくれた女の子に対して、書店で本を選ぶときに見ている点や読書量などについて質問。本への愛があふれる回答に、会場は一気にあたたかな気持ちに包まれました。

 来場者からの質疑応答ののち、約1時間30分にわたるイベントは終了を迎えました。イベント中には笑いがこぼれるなど、アットホームな雰囲気に包まれた本イベント。『今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150! 2』には、YAだけでなく大人の心にも響く本がたくさん掲載されています。ぜひ手に取ってお気に入りの1冊を探してみてくださいね。

文・写真=吉田有希

ポプラ社
2018年5月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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