「次こそ死んでこい」理不尽な命令により9回出撃した特攻兵はなぜ生還を果たせたのか[ゴロウ・デラックス]

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TBS「ゴロウ・デラックス」公式サイトより

 稲垣吾郎さん(44)が司会を務める読書バラエティー「ゴロウ・デラックス」(TBS系)に8日、劇作家の鴻上尚史さんが出演した。鴻上さんは組織に理不尽な命令を下されたらどう立ち向かうのか、奇跡の特攻兵の勇気を例にあげ解説した。

■9回出撃し9回生還した奇跡の特攻兵

 1944年太平洋戦争の末期、日本軍は戦闘機を敵の軍艦に体当たりさせる自爆攻撃を行っていた。終戦までに戦死した特攻兵は4000人に上ったという。しかしそんな特攻隊のなかで、9回出撃し9回生還した奇跡の特攻兵がいた。今回の課題図書は“奇跡の特攻隊員”佐々木友次氏の生涯と生前のインタビューを収録した『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社)。現在16万部を超える大ヒットとなっている。稲垣さんも「この本を読んでこんなことが本当にあったなんて信じられなかったですね」と番組冒頭で感想を述べた。

 著者の鴻上さんは「僕の世代は戦争ものドラマが結構あった。その中でも特攻は、作家としてはどういう気持ちで行かれたんだろうなと興味があった」と執筆の動機を語る。鴻上さんはある本で佐々木さんの存在を知り、札幌の病院に入院中の佐々木さんを何度も訪ね話を伺い、この本にまとめたという。

■自爆攻撃に効果はあったのか?

 鴻上さんによると当時特攻に使われた戦闘機は、銃座が外され落とせない爆弾が搭載され、体当たりに特化した「死の戦闘機」だったという。しかし戦艦と飛行機の鉄板の厚さは段違いで、たとえ体当たりが成功したとしても、攻撃の効果には疑問が持たれていた。自爆攻撃に反対していた人たちからは「コンクリートに生卵をぶつけるようなもの」との声があがっていたという。

■死んでもいないのに「軍神」に

 それでも部隊に特攻の命令は下った。佐々木さんは部隊長のはからいで、上層部に内緒で爆弾を落とせるように改造された戦闘機で1度目の出撃をした。輸送船に爆弾を投下し命中させ基地に戻った佐々木さんは、自分が既に戦死したものとして扱われていることを知る。輸送船ではなく軍艦を沈めた「軍神」として新聞にも発表されており、大きく見積もった成果と英雄的行為を現実のものとするために、「次こそ体当たりをして死んでほしい!」と上官に言われ再度出撃することになる。しかし佐々木さんはその後も出撃を繰り返すも、何度も生きて帰った。その度に上官になじられ、次こそは死んでくることを要求されていたという。

■奇跡の生還を果たせた理由とは

 佐々木さんが9度も生きて帰れたのは、いくつかの理由があった。番組では佐々木さんが生前の病床で受けたインタビューで、「無駄死にはしたくなかった」と語っている音声が放送された。厳しい訓練を続け一流のパイロットとなった佐々木さんが、戦いの中で死ぬのであれば仕方ないが、「死ね」という命令を出すのはどうなんだ、と怒っていた、と鴻上さんは当時の佐々木さんの気持ちを代弁した。

 また佐々木さんの子どものころの夢はパイロットになり空を飛ぶということだったという。鴻上さんはインタビューで伺った内容から、佐々木さんは「飛行機に乗るのが大好きで、空を飛ぶことが大好きで、だから一回で終わらせたくないし、大好きな飛行機を壊したくないという思いが一番の理由だったのではないか」と何度も奇跡の生還を果たせた一番の理由を推測した。

 番組最後に鴻上さんは、死ぬことが目的かのような理不尽な命令を出す軍隊をブラック企業に例え、「ブラックな組織に対してこれだけ戦った人がいたと思うだけでも勇気が湧く」と現代の日本で生活する我々にも共感する部分があると称賛。そして「空を飛ぶのが好きだという単純な思いがブラックな組織と戦う武器になり得たんだ」と佐々木さんの偉業に思いを馳せていた。

「ゴロウ・デラックス」はTBSにて毎週木曜日深夜0:58から放送中。次回の放送は6月14日。ゲストは童話作家の角野栄子さん。課題図書は『魔女の宅急便』(福音館書店)。公式サイトでは予告動画を配信中。
http://www.tbs.co.jp/goro-dx/

Book Bang編集部
2018年6月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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