旗手啓介『告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実』と宮下洋一『安楽死を遂げるまで』
第40回講談社ノンフィクション賞が本日20日(金)に発表され、旗手啓介さんの『告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実』(講談社)と宮下洋一さんの『安楽死を遂げるまで』(小学館)に決まった。
受賞作の『告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実』は、文化庁芸術祭賞優秀賞など数々の賞を受賞したNHKスペシャルを書籍化した作品。日本が初めて本格的に参加したPKO(国連平和維持活動)の地・カンボジアで亡くなった一人の隊員の死の真相を、隊員たちの日記と、50時間ものビデオ映像を元に追究する。
著者の旗手さんは、1979年神奈川県生まれ。2002年にNHK入局し、ディレクターとして福岡局、報道局社会番組部、大型企画開発センターを経て、2015年から大阪局報道部所属。主な映像作品に、NHKスペシャル「サミュエル・エトー アフリカを背負う男」「宇宙の渚 46億年の旅人 流星」「調査報告 日本のインフラが危ない」「巨龍中国 大気汚染 超大国の苦闘」などがある。
もう一つの受賞作『安楽死を遂げるまで』は、安楽死に懐疑的だった著者が、スイス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、アメリカの一部の州、カナダで認められる安楽死の実態に迫った作品。スイスの自殺幇助団体に登録する日本人や「安楽死事件」で罪に問われた日本人医師を訪ね、終末医療に対する答えを探る。
著者の宮下さんは、1976年長野県生まれ。ウエスト・バージニア州立大学外国語学部卒業後、スペイン・バルセロナ大学大学院で国際論修士、同大学院コロンビア・ジャーナリズム・スクールで、ジャーナリズム修士。フランスやスペインを拠点としながら、社会問題から、政治、経済、スポーツ、医療まで幅広い分野を取材。著書に『卵子探しています 世界の不妊・生殖医療現場を訪ねて』がある。
ジャーナリストの森健さんは、両作品を読売新聞の書評で取り上げており、『告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実』については、「当時、この派遣を政府が十分に検証することはなかったが、著者が掘り起こした実像はあまりに重い」と評し、『安楽死を遂げるまで』については、「ときに壮絶、ときに切ない安楽死のありようは読む者の心を揺さぶらずにおかない」と同作について触れ、「著者の考察からは、生と死、社会のありように思いを巡らせることになるだろう」と評している。
こだま『ここは、おしまいの地』と高橋順子『夫・車谷長吉』
第40回講談社ノンフィクション賞の候補作は以下の通り
『大学病院の奈落』高梨ゆき子[著]講談社
『満たされることのない東京の闇を駆け抜ける デリヘルドライバー』東良美季[著]駒草出版
『告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実』旗手啓介[著]講談社
『安楽死を遂げるまで』宮下洋一[著]小学館
『ユニクロ潜入一年』横田増生[著]文藝春秋
また、同日発表された第34回講談社エッセイ賞は、こだまさんの『ここは、おしまいの地』(太田出版)と高橋順子さんの『夫・車谷長吉』(文藝春秋)が選ばれた。受賞作『ここは、おしまいの地』は、2018年に『夫のちんぽが入らない』が話題となったこだまさんが自身の半生を描いたエッセイ。『夫・車谷長吉』は、私小説作家・車谷長吉の妻である高橋さんが共に過ごした22年間を回想した作品。
川端裕人『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』
同じく発表された第34回講談社科学出版賞は、川端裕人さんの『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社)が選ばれた。受賞作は、人類進化学者の海部陽介氏の学説などをもとに、ホモ・サピエンスが出現する前に多種多様に存在した原人たちの謎について解説した一作。
講談社ノンフィクション賞はノンフィクションを対象として、1979年に創始された文学賞。2019年より「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」と改称されるほか、1985年に創始された講談社エッセイ賞は今年度限りで終了、講談社科学出版賞は継続される。
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