第70回読売文学賞が決定 小説賞に平野啓一郎『ある男』ほか

文学賞・賞

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 第70回読売文学賞の各賞が2日(土)に発表され、小説賞に平野啓一郎さんの『ある男』(文藝春秋)が選ばれた。

 受賞作の『ある男』は、不慮の事故で亡くなった男性が、実は家族に名乗っていた人物ではなかったことが判明し、その男性の妻・里枝から依頼を受けた弁護士の城戸が調査を始める物語。城戸は男性の人生を探るうちに、過去を変えて生きる男たちの存在を知ったことで自身が抱える問題に向き合うこととなる。本作は2019年本屋大賞にノミネートされている。

 翻訳家でエッセイストの鴻巣友季子さんは、〈主人公は数奇な運命をたどる里枝ではなく、あえて弁護士の方に設定されている。城戸が謎の男「X」の正体を追う物語が本筋に見えて、実はそれを通して彼が自らの夫婦、親子の問題、ひと時の恋心、死刑や被災者支援にまつわる思想、そして在日三世としてのルーツと向き合うことが主眼である〉と本作について触れ、〈「X」の正体は半ば過ぎで当たりがつくものの、間に幾人もの偽者がいて真相はなかなか掴めない。マグリットの絵画「複製禁止」や芥川龍之介の戯曲『浅草公園』、里枝の息子が詠む俳句がモチーフを多彩に変奏する。本作は著者が近年唱える「分人」という概念の大胆な発展形と言えるだろう〉(週刊新潮・書評)と評している。(https://www.bookbang.jp/review/article/560615

 著者の平野啓一郎さんは、1975年愛知県生れ。京都大学法学部卒。1999年、大学在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により芥川賞を受賞。著書に『葬送』、『高瀬川』、『決壊』(芸術選奨文部科学大臣新人賞)、『ドーン』(Bunkamuraドゥマゴ文学賞)、『マチネの終わりに』(渡辺淳一文学賞)などがある。

 そのほか「戯曲・シナリオ」、「評論・伝記」、「随筆・紀行」、「詩歌俳句」、「研究・翻訳」の5部門が発表されており、戯曲・シナリオ賞は劇団KAKUTAを主宰する桑原裕子さんの「荒れ野」(「悲劇喜劇」2018年5月号)、評論・伝記賞は歴史家・渡辺京二さんの『バテレンの世紀』(新潮社)、随筆・紀行賞は日本比較文学会会長である西成彦さんの『外地巡礼 『越境的』日本語文学論』(みすず書房)、詩歌俳句賞は第49回高見順賞を受賞した時里二郎さんの詩集『名井島』(思潮社)、研究・翻訳賞は東京大学名誉教授の古井戸秀夫さんの評伝「評伝鶴屋南北〈全2巻〉」(白水社)が受賞した。

 贈賞式は2月20日に、東京・内幸町の帝国ホテルで行われ、受賞者には正賞の硯と副賞の200万円が贈られる。

 読売文学賞は、1949年に読売新聞社が創設した文学賞。過去1年間に発表された作品を対象とし、「小説」、「戯曲・シナリオ」、「評論・伝記」、「詩歌俳句」、「研究・翻訳」、「随筆・紀行」の全6部門の作品を選出する。第70回の選考委員は、池澤夏樹(作家)、荻野アンナ(作家、仏文学者)、川上弘美(作家)、川村湊(文芸評論家)、高橋睦郎(詩人)、辻原登(作家)、沼野充義(文芸評論家、ロシア・東欧文学者)、野田秀樹(劇作家)、松浦寿輝(詩人、作家、批評家)、渡辺保(演劇評論家)が務めた。

第70回読売文学賞 各賞の受賞作
小説賞:『ある男』平野啓一郎[著]文藝春秋
戯曲・シナリオ賞:「荒れ野」桑原裕子[著]「悲劇喜劇」2018年5月号
評論・伝記賞:『バテレンの世紀』渡辺京二[著]新潮社
随筆・紀行賞:『外地巡礼 『越境的』日本語文学論』西成彦[著]みすず書房
詩歌俳句賞:詩集『名井島』時里二郎[著]思潮社
研究・翻訳賞:『評伝鶴屋南北〈全2巻〉』古井戸秀夫[著]白水社

Book Bang編集部
2019年2月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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