「それはもう、タモリさんの領域ですよね」ハライチ岩井を前に佐久間Pと能町みね子がその面白さを徹底解剖

対談・鼎談

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僕の人生には事件が起きない

『僕の人生には事件が起きない』

著者
岩井, 勇気, 1986-
出版社
新潮社
ISBN
9784103528814
価格
1,320円(税込)

書籍情報:openBD

【『僕の人生には事件が起きない』刊行記念特集】岩井勇気×佐久間宣行×能町みね子/なんでもないことを書いてみたら

[文] 新潮社


(左から)佐久間宣行さん、岩井勇気さん、能町みね子さん

日常系エッセイの新たな傑作、ハライチ岩井による『僕の人生には事件が起きない』が刊行された。
かねてより岩井さんの個性を認めるゴッドタンプロデューサーの佐久間宣行さん、コラムニストでマンガ家の能町みね子さんに、その面白さを徹底的に解剖してもらいました。

何も起きないからこその妄想力


岩井勇気さん

――本書は、岩井さんの身辺雑記を綴った初エッセイ集です。まずは感想をお聞かせいただけますか。

佐久間 すごく面白かったけど、岩井っぽいなと思ったのが、毎回、妄想が絶対に入ってくる。妄想部分が普通のエッセイより長いよね。

岩井 事実を書いている部分のほうが短いかもしれないですね。

能町 ラジオでも嘘をつきますよね。普通、フリートークってあんまり嘘つかないんですけど、途中から完全に嘘になってくるんですよね。

岩井 完全に嘘だったらセーフだと思ってるんです。

能町 誰もが嘘と分かる嘘なんですけど、そのまんま文章にしてますよね。

佐久間 俺は、あんかけラーメンの汁の話(汁を水筒に詰めて、一日中持ち歩いて飲む話)が好きだったな。あとムンクをアイドルの握手会に見立てる話。あれ、めちゃくちゃ面白かったね。自分の人生に何も起きないことが、結果として妄想力を高めてるよね。

岩井 そうかもしれないです。こんなにネタを量産させられても、そんなに話題ないけどなって思って。

佐久間 エッセイは、書いている途中に妄想になっていくの?

岩井 書き始めてからですね。

能町 連載の話が来たときに、どういうネタで行こうとかあったんですか。

岩井 正直、文章で主張したいことも、この間こんな大事件ありました、ということもないので、もう何でもないことを書こうというところから始めました。

佐久間 最初のほうの話は自分に即しているけど、徐々に妄想が混じっていく。その完成形が、あんかけラーメンの汁だよ、本当にこれ、超名作だよ。

能町 段ボールの死体の話も名作ですね。

佐久間 段ボール切ってただけの話なんだけどね。

岩井 初めは一人暮らしを始めた話のスタイルでいけるかなって思ったんですけど、二本ぐらい書いて、もう出し尽くしちゃった。

能町 早い(笑)。ラジオのトークをそのまま文章にして、ちゃんと面白くなるというのはすごいなと思います。

岩井 でも、トークで文章にできるのは二割ぐらいです。ラジオはニュアンスで話しているところがあるので、あまりボケが入っているのを文章にするのはちょっときつい。

佐久間 そう? あんかけラーメンの汁はめちゃめちゃボケてるぞ。

岩井 ツッコミがいるといい話は書けないですね。

佐久間 なるほど。

能町 ラジオの話からして斬新なんですよね、観点が。嘘をついたまま貫くとか、あまり他の人はしていない気がします。

佐久間 あとたまに、ただの岩井の主張が入ってるときがあるでしょう。

岩井 同級生と会ったときの話とか。

佐久間 ただ、怒りだもんね。

岩井 あれはあの出来事のすぐ後がエッセイの締切だったので、むかついた感情だけで書きました。

佐久間 あれだけちょっと質感が違うんだよ。

能町 分類すると、妄想か怒りかどっちかですよね。

岩井 喜怒哀楽だったら怒が一番書きやすいですね。

能町 自分の怒りを無駄だとは思いつつ、人に説得するつもりで書く、なんでこれに腹が立つかを延々説明するというのは、すごく書きやすいです。

岩井 なんで俺は怒ってんだろうっていうことを分析していったら書けますね。

能町 面白い話を書けって言われると難しいんですけど、むかつく話を延々分析していくと、結果面白くなってくるっていうのはありますね。

佐久間 VIPの話もすごく岩井っぽいよね。

岩井 一つのことに固執して。

佐久間 一つのことからボケ、妄想のパターンがどんどん増えていく。

岩井 ネタっぽいですよね。

能町 ネタも含めて一貫しているんです。ずっと一点突破しているような。

岩井 軸があると書きやすいです。

佐久間 ルール無用の妄想ではない。

岩井 ルールは設けてますね。

佐久間 それが楽しくなってくる感じが、読んでいてある。多分、俺が好きな話は、全部そうなんだと思う。

新潮社 波
2019年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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