『せんとてん』
- 著者
- ヴェロニク・コーシー [著]/ローラン・シモン [イラスト]/谷川 俊太郎 [訳]
- 出版社
- かんき出版
- ジャンル
- 文学/外国文学、その他
- ISBN
- 9784761274924
- 発売日
- 2020/04/15
- 価格
- 1,650円(税込)
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「音読はとても大事」 谷川俊太郎が絵本を声に出して読むことの大切さを語る
[文] かんき出版
ベルギーやフランスの教育現場で注目を集め、全世界11カ国で翻訳されている絵本『せんとてん』(かんき出版)が刊行。今回、翻訳を担当した詩人の谷川俊太郎さんに、本書の魅力や音読の大切さ、コロナ禍に対する思いについて話を聞いた。
※本インタビューは、新型コロナウイルスの影響を鑑みて、オンライン会議システムのZOOMにて行いました。
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――『せんとてん』は、弊社から出版する初めての子ども向け絵本になりますが、この記念すべき一冊目の翻訳を谷川さんに手掛けていただき、たいへん光栄です。谷川さんは、この本のどんな点に魅力を感じられましたか?
「せん」と「てん」が出会うところから物語がスタートしますが、そもそも「せん」と「てん」というものは抽象的な概念ですよね。「せん」も「てん」も、本当は面積がないものですし。それを具体的な、人間的なものに置き換えているというところが面白かったですね。
――谷川さんが日本語に翻訳された際の、言葉のチョイスや独特のリズムがとても素晴らしいと感じました。
この絵本はもともとはフランス語で書かれているでしょう。今回は、それが英訳されたものをもとに日本語に訳していますが、翻訳の場合、できるだけ原文の雰囲気を残して、しかも日本語として楽しんで読めるようにしたいというのが僕の思いなんです。
――たとえば、直訳すると「腰の曲がった老人」となるところを「よたよた としより」と訳されていたり、「ZOOM」という言葉は「ビューン」という音に訳されています。
絵本は子どもが読むことが多いですから、体に則した言葉を選ぶ傾向にありますね。オノマトペや擬態語は、子どもに入っていきやすいんですね。
――しっくりくる言葉がなかなか見つからないなど、言葉選びに苦労することはあるのですか?
ありますよ。むしろ、そればっかりですよ、翻訳は。日本語として成立するセリフとはまったく違う言語を移すわけだから、やっぱり難しいものです。僕は、意味を犠牲にしても日本語として楽しめるものにする傾向があるので、ときどき「これは誤訳だ」なんて言われることもあるくらい。絵本の場合は、絵があるから助かるんですよ。絵を見て、それに合う言葉をなんとなく自由に考えるということもできますからね。
――文章のリズムが美しく、歌のように流れているように感じます。
日本語には、日本語の持っている“調べ”があります。僕は、その調べを大切にしていて、意味的には合っていても音的にどこか不満を感じたら、そこを直したりする。自分の中の“音感”のようなものが、わりと翻訳に役立っているんじゃないかなと思いますね。
――我が家にも小学生の子どもがいて、音読の宿題がたくさん出るのですが、やはり音読というのは大切でしょうか?
とても大事だと思いますよ。もともと言葉は音だったわけで、文字はあとから生まれたものでしょう? だから、子どもにとっては「耳で聞いて口で言う」のが言葉の最初で、それから文字を読んで覚えていくということになるわけです。音読するというのは、人間の体の中に言葉を入れるというのかな。それに、言葉の“音”は活字じゃ伝わらないから、声に出した方がいいですね。
――大人が読み聞かせをする場合は、どんな工夫をするのが良いと思われますか?
テキストをそのとおり真面目に読むんじゃつまらなくて、その場その場のアドリブで、言い方とか、声の強弱とか上下とか、自分の生理に従って、子どもが喜びそうなものを見つけていく。絵本のテキストは、印刷されたとおりに読む必要がないというのが僕の持論なんですよ。セリフも、まったく変えちゃっていいんじゃないですか。
――自由に変えてしまってもいいのですね。今、新型コロナウイルスの影響で、休校や在宅ワークが続くなどして、不安を抱えている人々も多いと思います。反面、子どもと一緒にいる時間が増えているので、絵本を一緒に読むなど触れ合いを大切にしたいなと思っています。
そうですね、『せんとてん』も、前向きで明るい内容ですよね。最初はブルーだったのに最後にはカラフルな世界になって。読んだり、開いて絵を見るだけでも、元気が出るんじゃないかな。
――谷川さんは、今どのような感じで日々を暮らしていらっしゃいますか?
前と変わらず。意識下にショックを受けてはいると思うんですけれど、自分では気が付いていませんね。当分の間は、これまでと同じことをしていればいいんじゃないのかな。我々は大統領じゃないから、世界を動かせるだけの地位にいないし、自分としてできる仕事を誠実に続けていく以外ないと思うけどね。今って、時代の変わり目、地球の変わり目の気がするんです。だから、新型コロナウイルスが終息すればそれで済む問題でもないし、これから地球や人間がどうあるべきかということを本当に考えていく必要があるんだと思いますね。
――私たちも慌てず、焦らず、粛々と生活したいと思います。では最後に、谷川さんのオススメの本を一冊教えてください。
じゃあ、5月20日に出版されたばかりの新刊、『なぞなぞうた』(童話屋)を紹介します。『あらしのよるに』などを手掛けたあべ弘士さんが絵を手掛けていて、右ページになぞなぞがあり左ページに答えがあるという構成で、37問のなぞなぞうたが収録されています。保護者が声に出して読んであげて子どもと共に答えを探すという形で、親子一緒に遊べるんじゃないかな。今のような状況のときに、ぴったりの一冊じゃないかと思います。『せんとてん』と一緒に読んでみてください。