『パラアスリート谷真海 切り拓くチカラ』徳原海(かい)編著 「TOKYO」へ 挑戦追う

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パラアスリート谷真海 切り拓くチカラ

『パラアスリート谷真海 切り拓くチカラ』

著者
徳原 海 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784087900675
発売日
2021/12/15
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『パラアスリート谷真海 切り拓くチカラ』徳原海(かい)編著 「TOKYO」へ 挑戦追う

[レビュアー] 田中充(産経新聞運動部記者)

東京パラリンピックで日本選手団の旗手を務めた義足のアスリート、谷真海(まみ)が紆余曲折(うよきょくせつ)を経て大会を目指す挑戦の日々を追ったドキュメンタリーだ。本人の語りと、二人三脚でサポートした夫や関係者の証言などをまとめた。開幕までの約2年半に密着しているが、谷の「TOKYO」への挑戦は2013年9月から始まっていた。大会招致が決まった国際オリンピック委員会総会。アルゼンチン・ブエノスアイレスの会場で壇上に立ち、最終プレゼンターとして「スポーツの力」を訴えた。

「自分の経験が少しでも日本の将来につながったことを嬉(うれ)しく思うと同時に『私の人生、これでよかったんだ』と背中を押してもらえたように感じました」。早稲田大2年のときに骨肉腫で右膝下を切断。義足になった谷は抗がん剤の副作用で毛髪が抜け落ちた頭にウイッグをつけ、就職活動をしてサントリーに入社した。ここから、スポーツとのつながりを深めていく。

パラリンピックに陸上走り幅跳びで2004年アテネ大会から3大会連続出場。故郷の宮城県気仙沼市を東日本大震災の津波が襲う試練も経験した。ブエノスアイレス後の結婚、出産を経て、16年にパラトライアスロンに転向し、翌年には世界選手権を制覇。順風満帆に見えた道のりはしかし、自らの障害クラスが実施種目から外れ、出場の可能性すら閉ざされかける。

あきらめなかった。国際パラリンピック委員会の会長宛てにメッセージを送り、国際競技団体にも英文レターを出した。自分だけのことではない。障害を持つ全てのアスリートにパラリンピックの門戸は開かれるべきだ、との思いからだ。こうした経緯も本書では紹介している。

大会への扉は開かれたが、障害の軽いクラスと統合されるという大きなハンディを負った。厳しい条件下、早朝に走ったり、息子を連れて海外へ〝武者修行〟に出かけたり。出場権を勝ち取り、本番は笑顔でゴールできた。コロナ禍での開催には賛否があった。だからこそ、大会が「大きな通過点でなくてはならない」。谷は多様性と調和の進展が大会のレガシーだと信じている。谷の言葉が随所に盛り込まれた本書を通じ、「スポーツの力」を知ってほしい。(集英社・1760円)

評・田中充(運動部)

産経新聞
2022年1月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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