2022年本屋大賞は逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』に決定 ロシアによるウクライナ侵攻で注目

文学賞・賞

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 全国の書店員が「今いちばん売りたい本」を選ぶ「2022年本屋大賞」が6日に発表され、逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)が受賞した。

 受賞作『同志少女よ、敵を撃て』は、第二次大戦の独ソ戦を舞台に、女性のみで構成されたソ連軍のスナイパー部隊の一員となった少女の成長と過酷な日々を描いた作品だ。第11回アガサ・クリスティー賞の受賞作で、賞史上初めて選考委員全員が満点をつけた作品として話題となった。2021年11月に刊行後、新人のデビュー作であるにもかかわらず直木賞候補作となったほか、戦争の無慈悲さや戦時における女性差別について描かれていることもあり、ロシアによるウクライナ侵攻がはじまった際にも注目を集めた。

 文芸評論家の末國善己さんは《最前線でドイツ兵を殺し続けたセラフィマ(※主人公 編集部注)が、真に撃つべき敵がドイツ軍の狙撃兵でも、イリーナ(※敵役 編集部注)でもないことに気付く終盤は、いつの時代も戦争になると必ず起こる民衆の抑圧や、戦争そのものが持つ欺瞞、不条理を読者に突き付けており、強く印象に残った。》と述べ《将来が期待できる新人》と評している。またスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチのノンフィクション『戦争は女の顔をしていない』と併せて読むことで理解が深まると勧めている。

 逢坂さんは1985年埼玉県生まれ。明治学院大学国際学部国際学科を卒業後、会社員として働きながら執筆活動に取り組み、2021年8月に『同志少女よ、敵を撃て』で第11回アガサ・クリスティー賞を受賞して作家としてデビューした。デビュー作での本屋大賞の受賞は、2009年の湊かなえさんに続いて2人目となる。

 その他、「翻訳小説部門」は、矢島暁子さん翻訳のソン・ウォンピョン『三十の反撃』(祥伝社)が受賞、「発掘部門」は、吉村昭さんの『破船』(新潮社)が「超発掘本!」に輝いた。

 本屋大賞は今年で19回目。2020年12月1日~2021年11月30日に刊行された日本のオリジナル小説を対象に実施され、全国の書店で働く書店員による投票で決める。今回は全国483書店、書店員627人の一次投票により、集計の結果、以下の10作がノミネートされた。

『赤と青とエスキース』青山美智子[著]PHP研究所
『硝子の塔の殺人』知念実希人[著]実業之日本社
『黒牢城』米澤穂信[著]KADOKAWA
『残月記』小田雅久仁[著]双葉社
『スモールワールズ』一穂ミチ[著]講談社
『正欲』朝井リョウ[著]新潮社
『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬[著]早川書房
『星を掬う』町田そのこ[著]中央公論新社
『夜が明ける』西加奈子[著]新潮社
『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成[著]KADOKAWA

 昨年は、DVや児童虐待などの問題を浮き彫りにした町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)が大賞を受賞。過去には小川洋子さんの『博士の愛した数式』(第1回)、東川篤哉さんの『謎解きはディナーのあとで』(第8回)、恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』(第14回)などが受賞しており、大賞作品の多くが映像化されている。

Book Bang編集部
2022年4月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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