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- カケラ
- 価格:726円(税込)
美容外科医の橘久乃は、幼なじみの志保から「やせたい」という相談を受ける。カウンセリング中に出てきたのは、太っていた同級生・横網八重子の思い出と、その娘の有羽が自殺したという情報だった。有羽は高校2年から徐々に学校に行かなくなり、卒業後、ドーナツがばらまかれた部屋で亡くなっているのが見つかったという。母が揚げるドーナツが大好物で、それが激太りの原因とも言われていた。もともと明るく運動神経もよかったという少女は、なぜ死を選んだのか?
「美容整形」をテーマに周囲の目と自意識で作られる評価の恐ろしさを描く、ミステリーの名手・湊かなえの長編『カケラ』から、一部を公開します 。
***
田舎町に住む女の子が、大量のドーナツに囲まれて自殺したらしい。
モデルみたいな美少女だとか。
いや、わたしは学校一のデブだったと聞いたけど――。
プロローグ
夜通し生激論 本日のテーマ「校則」
必ず守らなければならないことは、片手で数えられるだけに留めた方がいいのではないでしょうか。
たとえば、「SNS上に誹謗中傷を書き込まない」、「精神的、身体的に他者を傷つける行為をしない」、「他者の学業を妨げる行為をしない」、この三つさえ守っていれば、学校は、今よりは子どもたちが過ごしやすい環境になるんじゃないかと思うんです。
先生たちだって忙しい。
授業に部活動、進路指導に生徒指導……。生徒たちに投げなければならないボールはたくさんある。先生から投げられたボールを生徒たちは受け止め、そのキャッチボールが円滑に進めば、教師と子どもたちのあいだに信頼関係が生まれる。
入学したての頃の生徒たちは誰だって、どんなボールが飛んできてもキャッチしようとがんばるでしょう。だけど、受け止めきれないほど多くのボールが飛んできたら。
全部キャッチすることをあきらめるんじゃないでしょうか。それどころか、ボールそのものに意識を向けることを放棄する。あれはくだらないものなのだ、自分に関係ないものなのだ、と自分に都合のいい解釈をすることになる。
そうして、大切なことまでもが守られなくなってしまう。
私が必要ないと思っている校則ですか?
湊かなえ
1973年広島県生まれ。2007年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞。08年同作品を収録したデビュー作『告白』は「週刊文春2008年ミステリーベスト10」で第1位、第6回本屋大賞を受賞。また14年には、アメリカ「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のミステリーベスト10に、15年には全米図書館協会アレックス賞に選ばれた。12年「望郷、海の星」で第65回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。16年『ユートピア』で第29回山本周五郎賞受賞。18年『贖罪』がアメリカのエドガー賞〈ペーパーバック・オリジナル部門〉にノミネートされた。著書に『落日』『カケラ』『ドキュメント』などがある。
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