中高生から圧倒的共感! 学校の図書室が舞台の6つのストーリー 相沢沙呼『教室に並んだ背表紙』試し読み

試し読み

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“寂しくて、迷ってしまったときは物語を読んで”。教室で過ごすことの息苦しさ、大人になることへの不安、同級生に対する劣等感……悩める少女たちは、本との出逢いに微かな希望を見つける。

中学校の図書室を舞台に、思春期の心模様を繊細に描く連作短編集『教室に並んだ背表紙』(相沢沙呼著)より、「その背に指を伸ばして」の冒頭を公開いたします。

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その背に指を伸ばして

 なにか変わったお話を読んでみたくて、いつもの書架の前に立った。

 図書室に入ってすぐ、受付の近くにあるこの小さな書架には、色とりどりの文庫本が収まっている。中学生に読んでもらいたい小説を、しおり先生が選んだものみたい。どれも読みやすく、十代の子たちが主人公だから共感しやすいと評判だ。

 しおり先生だけじゃなくて、歴代の図書委員が選んだ本も交ざっているようだけれど、こうしてわかりやすく一つの棚に収まっててくれるのはありがたかった。だって、中学生や高校生が主人公の本を探すのって難しい。ライトノベルなら簡単なんだけど、そうじゃない小説は、タイトルや表紙で当たりを付けて、いちいちあらすじを確認しないといけない。大人が主人公のお話は、なんだかついていけないから、あんまり読みたくない。

 だからといって、恋愛ものとか、部活ものとか、そういうのは読みたくないから、この棚の中からでも、ピンと来る本を見つけるのは難しい。書架の前に立って、背表紙に書かれた題名を、一つ一つ心の中で読み上げる。色とりどりの背表紙、なんて言ったら聞こえがいいかもしれないけれど、この書架に収まっている背表紙の色は、みんなバラバラで統一感がない。あたしからするとそこは不満な点だった。大人たちから、几帳面な性格をしてるって言われるせいかもしれない。

 だって、ここの棚にある小説は、すべてタイトルの五十音順で並んでいる。だから本屋さんで見る棚みたいに、出版社とかレーベルとかそういったものでまとまってない。赤い背表紙の隣に黄色いのが来て、次は青になったりする。あんたは信号機かっての。それだけならまだいいんだけれど、ライトノベルもよく交ざっているから違和感がはんぱない。ラノベの背表紙って、イラストの一部分がタイトルの上とかに描かれてることがあるから、たとえば新潮文庫の隣とかに来ると、めっちゃ浮いている感じがしちゃう。

相沢沙呼(あいざわ・さこ)
1983年、埼玉県生まれ。2009年『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。20年『medium 霊媒探偵城塚翡翠』で第20回本格ミステリ大賞を受賞。著書に『ロートケプシェン、こっちにおいで』『マツリカ・マジョルカ』『ココロ・ファインダ』『卯月の雪のレター・レター』『雨の降る日は学校へ行かない』『小説の神様』『invert 城塚翡翠倒叙集』『invert II 覗き窓の死角』など。

集英社
2023年7月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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