「なに恥ずかしいこと平気でやってるんだ」タモリにツッコまれた放送作家が語った自作自演の企画【極私的「タモリ倶楽部」回顧録】

エッセイ・コラム

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「阪神タイガース 優勝記念祝賀会!!」の台本(写真提供:高橋洋二)

野球好きではないスタッフによる野球企画

 2002年の4月はプロ野球ファン、とりわけ阪神タイガースファンにとって記憶に強く残っている出来事があった。と言いながらほとんどの人が忘れていることとわかっているのが「タイガース開幕7連勝」である。

 私はヘラヘラ喜んでいるだけだったが、「タモリ倶楽部」の若いディレクターが企画会議に「阪神が今、バカみたいに強いので、半年後の10月にタイムスリップしたつもりになっている阪神ファンが、今シーズンの優勝を決めたという設定で盛り上がっている回はどうでしょう」と素晴らしいネタを持ってきた。ちなみに彼は野球好きではない。こういうところが当番組スタッフの優秀なところだ。

 キャスティングはとんとんと決まった。北野誠、上島竜兵、ダンカン、千秋、ますだおかだ、堀井憲一郎、高橋洋二である。全員虎ファンと思いきや、ますだおかだの岡田圭右だけは阪急時代からの熱心なオリックスファンだが、東京都港区のハウフルスは関西ならではの微妙な野球ファンの地図模様に詳しくないのでアバウトにコンビでの登場となった。

 4月26日放送の「阪神タイガース 優勝記念祝賀会!!」である。だいたいそもそもタモリが今のプロ野球にさほど愛着がないし、阪神タイガースとなれば尚更だ。ということを我々スタッフは重々知っているのになぜこんな企画をタモリにぶつけたのかというと、この時期まではタモリが興味がないものを取り上げるとたまに番組がとても活性化する、という考えがあったこともある。この傾向はその2年後あたりからガラリと変わるのだが、そのへんのあれこれは〈後篇〉で触れます。

妄想を好きにしゃべってくださいという台本

 さてこの回、私は相当楽しく台本を書いた。

 タモリに「阪神ファンだったんだ」と訊かれた千秋が「そうだよ! すっごいファン! 川尻とか大好き」と答えている。

 これは事実なのか私の妄想なのか今ではもうわからない。私は「田淵幸一が一番好き」と答えた。これは普通に事実。

 番組は中身に入り、今シーズンの優勝までの長かった戦いを振り返ることに。「開幕7連勝は素晴らしかった」「星野仙一監督が1勝目をあげた井川投手を抱きしめた姿に感動した」といった、収録日までに実際にあった出来事をやりとりのセリフとして書いたのは地味ながら良かったと思う。そして北野誠は「ま、それはええねんけど、開幕7連勝の話、普通にしてる場合ちゃうやろ、企画的に」といさめる。

 つまりはだいたいの阪神ファンは優勝するとはどういうシーズンを送ることなのか、なかなかイメージできない哀れなものたちなのだ、というすべり出しを書いたのだ。そして以降は「皆さん、妄想を好きにしゃべってください」という流れになる。

 例として私が書いたのは「星野監督初乱闘初退場」「藪、ついに清原に殴られる」「赤星、球団新記録の一試合七盗塁」「田淵コーチ愛人発覚」「遠山、一試合で全ポジションを守る」といったものだった。こういったものは「使ってください」というものではなく、「今回はひたすら楽しくなってください」というメッセージである。収録のあと出演者の多くは呑みに行ったらしい。楽しかったにちがいない。


「昭和ラジカセ史探訪」の台本(写真提供:高橋洋二)

リアルにどうかしてる

 2008年3月の「あなたの『持ってた!』がきっとある!! 昭和ラジカセ史探訪」も若いディレクターが会議で「今、昔のラジオカセットレコーダーが若い人に人気で、当時の製品を修理して売り出している人がいる」というネタ案を出し、私が思わず「俺ラジカセめちゃくちゃ大好きで中1の時ソニーの『プロ1900』を親に買ってもらって、そのとき同級生はHITACHIのパディスコやナショナルのMACを持っててねえ、あと『プロ1980』っていうすごいやつが出てきてねえ」とまくしたててしまったのだが、結果「じゃあ出れば」ということになって出た回である。

 中古ラジカセ専門店を営む松崎順一さんを迎えて、ガダルカナル・タカ、江川達也、カンニング竹山、高橋洋二らが出演した。

 オープニングでタモリ、タカ、江川が中古ラジカセ店に入ってくる。その店には竹山と高橋が客として先にいてラジカセについて熱く語り合っている、という台本を書いたのだが、直前まで私がなにを熱く語ったらいいのか用意しておくのを忘れてしまっていてカメラが回り始めた時はちょっとあせったが、かなり自然に「この『CF』という型番はソニーならではのものであって、『CF1900』は当時『プロ1900』と呼ばれていたんですよ。他には『スタジオ1700』とかありまして」といった言葉がすらすら出た。

 竹山さんは、なにこの人急にわけのわからないこと喋り始めているんだと思ったことだろうが「へえ~」「なるほど~」と相槌を打ってくれた。

 収録中盤では私の中学生時代のカセットテープコレクションを披露した。ニッポン放送の「HITACHIミュージック・イン・ハイフォニック」などをエアチェックした映画音楽(『オデッサ・ファイル』『ゴールド』『ボルサリーノ2』など)ばかりのカセットだ。

 タカさんは「俺は当時、チューリップの『心の旅』とか聴いてたけどなあ」と絶妙な「普通の人」を代表するリアクションをして下さった。私も「心の旅」は大好きだがそのことはおくびにも出さなかった。ここはひとつ、「ちょっとどうかしてる人」を造形しようということなのだが、まあリアルにどうかしてる中学生ではある。

 あとこの回は収録途中のテープチェンジ(出演者にとっては休憩時間)でタモリさんと松崎さんが「トランジスタと真空管の音の違い」について熱く語り合っていたことが印象に残っている。
 
 
 このように作家の私が自分で台本を書いて自分が出演している時、タモリさんは言外に「なに恥ずかしいこと平気でやってるんだ」というメッセージを送ってきてくださった。その通りだと思います。しかし本当に楽しかったことばかりだったのです。

どういうことになるのか後篇につづく

 ***

高橋洋二(放送作家)
1961年生まれ。1984年より放送作家、ライターに。「吉田照美のてるてるワイド」「近藤真彦マッチとデート」「ホットドッグプレス」などでキャリアをスタート、以降「タモリ倶楽部」「ボキャブラ天国」「爆チュー問題」「サンデージャポン」「小説新潮」などで執筆。著書に「10点差し上げる」(大栄出版)「オールバックの放送作家」(国書刊行会)など。

初出:「波」(2023年7月号)

新潮社 波
2023年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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