【話題の本】『聖トマス・アクィナス』G・K・チェスタトン著、生地竹郎訳

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■中世神学者の入門書が異例ヒット

推理小説『ブラウン神父』シリーズで名高い20世紀前半の英作家、チェスタトン。キリスト教擁護の評論でも知られる彼が、中世ヨーロッパ最大の神学者、トマス・アクィナスの思想を、逆説を駆使した華麗なレトリックで紹介するのが本書だ。

難解なトマスの哲学を一言で表現するならば、世界を肯定する「楽観論」であると著者は言う。「もし病的なルネサンスの知識人が『生か、死か、そいつが疑問だ』(福田恆存訳)と言うと仮定するなら、このがっしりした体格の中世の教会博士は雷鳴のごとき大音声で、『生。それが解答だ』とはっきり答えるであろう」。トマス研究者の山本芳久・東京大教授の解説も読み応え十分だ。

8月上旬に発売し、すでに3刷が決まった。中世神学者を扱った硬派な本としては異例の好調だ。担当した筑摩書房の北村善洋さんは「山本先生によるSNS(交流サイト)での紹介などもあり、発売前から注目されていたようです」と語る。

トマスの主著『神学大全』の初の文庫化となる『精選 神学大全』(岩波文庫、全4巻)の刊行が7月に始まったことも追い風だ。トマスの良き入門書として、時宜を得た出版となったようだ。(ちくま学芸文庫・1210円)

磨井慎吾

産経新聞
2023年9月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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