博物館マニア・丹治俊樹が選ぶ、日本全国にあるちょっと変わった「至宝」な博物館 ~偉人編~

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中谷宇吉郎 雪の科学館(石川県)

 海に囲まれ、多くの山々が連なる自然豊かな日本。四季も楽しめ、冬になれば北海道や東北、さらには日本海側のエリアを中心に毎年のように雪が積もる。雪だるまを作ったり、スキーやスノーボードなどのウィンタースポーツを通じて、日本にいれば雪に触れる機会は多々あることだろう。

 そうした“雪”に特化した珍しい科学館が、石川県にあることをご存知だろうか。片山津温泉のそばに位置しているこの科学館は、雪の結晶を研究していた地元出身の中谷宇吉郎の偉業を知ってもらおうと、平成6年に開館。

 建物の設計は、多くの博物館・美術館などを設計したことでも知られる磯崎新によるもので、六角柱の外観がとても印象的だ。館内には、受付正面に宇吉郎の生涯をまとめた映像が見られるシアタールームがあり、そこから一つ階を下れば、宇吉郎の生い立ちにまつわる展示、研究関連の資料、さらには、彼が雪の結晶を観察し続けた常時低温研究室が再現されている。


雪に魅せられた男の生きざま!美しく、そして魅力的な雪の結晶の世界へ!

 明治33年に、片山津温泉で生を受けた宇吉郎。高校を卒業したあとは、東京帝国大学理学部に進学し、そこで、師と仰ぐ物理学者の寺田寅彦と出会うことに。大学卒業後は研究所の助手を経て、北海道帝国大学理学部に赴任。そこで雪に埋もれた生活を送り、さらにはW・A・ベントレーが出版した雪の結晶をまとめた写真集に出会ったことがきっかけとなり、雪の研究に着手。

 そして、昼間でもマイナス10℃になる十勝岳の観測現場で、たくさんの雪の結晶を写真に収めた。膨大な数の観察によって、雪の結晶は、空の水蒸気の量と温度によって形が異なることを発見。その後は雪だけでなく氷の研究にも携わり、グリーンランドの氷床を研究するも、研究途中で骨髄炎により61歳で亡くなった。

 館内には、以上のような宇吉郎にまつわる展示があるのはもちろん、多くの実験を目で見て体験することができる。

 氷の粒に光が当たることでキラキラ光るダイヤモンドダスト、0℃以下の過冷却水で作る氷のタケノコ、金属の鋳型に氷をはさんで作る氷のペンダントなど、氷や雪の結晶にまつわる体験のバリエーションは実にさまざま。

 日本のみならず、世界中を見渡しても、雪や氷に特化した施設は大変珍しい。開館以降は、多くの来館者にその魅力を体験してもらいながら、この科学館を発端に、講演やシンポジウムなどを通して、中谷宇吉郎や雪氷の科学への関心を広める活動も行われている。

 地域によっては、冬になれば毎年のように降り積もる雪。氷の結晶という科学的な内容を学べるだけでなく、さまざまな体験ができることから、子どもから大人まで楽しめる博物館だ。

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丹治俊樹(たんじ としき)
好奇心の赴くままに、全国の知られざるスポットを発掘・取材し、発信している知の伝道師。本業であるフリーエンジニアのかたわら、「読者の視野を広げる」をコンセプトに、ブログ『知の冒険』を運営している。博物館が好きすぎて、これまでに訪れた博物館は1,100館以上。2021年、半年間かけて取材した全国のコアな博物館を紹介した書籍『世にも奇妙な博物館』を出版し、大ヒット。テレビ、ラジオ、雑誌などの多くのメディアを通して、日々博物館の魅力を発信している。

みらいパブリッシング
2023年10月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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