「自分が想像できる“多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな」映画も公開『正欲』が描くものとは[文庫ベストセラー]

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 11月7日トーハンの週間ベストセラーが発表され、文庫第1位は『正欲』が獲得した。
 第2位は『ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編10』。第3位は『じい散歩』となった。

 1位の『正欲』は10日に映画版が公開された。著者の朝井リョウさんの〈あらすじを簡単に書きたくない、作家が作った爆弾をそのまま、受け止めてほしい……〉との想いから、内容の公表は控えられている同作。同作の出版元の新潮社の紹介には《自分が想像できる“多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな――。》こんな言葉が引かれている。同作を読んだ直木賞作家の西加奈子さんの書評を紹介する。

 西さんはレビューの冒頭で《タイトルを見た時から、嫌な予感はしていた。「正」しさと「欲」望、相反する言葉のはずなのに、どこかで納得してしまった自分は、もうきっと、色々気づいているのだろうな、と思った。気づいているのに、見ないふりをしているのだろうと。》と読む前の印象を語り、その直後に《嫌な予感は、物語が始まってたった数ページで的中する。》とすぐにこれ以上読みたくないと感じたと告白する。

 その後物語は私たちが目をそらしている「多様性」の本当の意味を暴き出す。西さんは《私は、美しい言葉が好きだ。そのうちの一つが「多様性」だった。全ての多様性を肯定したいと思ったし、全ての多様性を肯定すべきだ、と考えていた。けれど、この小説に水を差された。》《誰かが「水を差された」と思う時、その人が守ろうとしていたものは何なのだろうか。》《それは、高揚なのではないだろうか。「多様性」という言葉を使う時、私はどこかで、気持ち良さを感じていたのではないのか。》と自らの感情を腑分けするように吐露しながら同作から受けた衝撃を語っている。西さんの書評全文はリンク先に掲載中

1位『正欲』朝井リョウ[著](新潮社)

自分が想像できる“多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな――。息子が不登校になった検事・啓喜。初めての恋に気づく女子大生・八重子。ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。ある事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり始める。だがその繋がりは、“多様性を尊重する時代”にとって、ひどく不都合なものだった。読む前の自分には戻れない、気迫の長編小説。(新潮社ウェブサイトより)

2位『ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編10』衣笠彰梧[著](KADOKAWA)

3学期最初の試験は4クラスの攻防戦『生存と脱落の特別試験』!冬休みが終わり高度育成高校の3学期が始まった。直後に告知された『生存と脱落の特別試験』。4クラスがジャンル別課題を対戦クラスにぶつける攻防戦で、さらに1位以外はクラスポイントが減少する、まさに生き残り戦。「やっぱり、簡単には相手も乗ってくれないわよね……」「どういうつもりかな?弁明があるなら聞こうか」「彼の背中を誰より近くで見ているのですから、それくらいは成長して下さいますよね」「ギャンブルってのは良いもんだなぁ。適当にサイコロを振ってみるもんだ」「ダメ……それは悪い手……」大人気学園黙示録、過酷な3学期の幕が開く!(KADOKAWAウェブサイトより)

3位『じい散歩』藤野千夜[著](双葉社)

夫婦あわせて、もうすぐ180歳。中年となった3人の息子たちは、全員独身――。明石家の主、新平は散歩が趣味の健啖家。妻は、散歩先での夫の浮気をしつこく疑っている。長男は高校中退後、ずっと引きこもり。次男はしっかり者の、自称・長女。末っ子は事業に失敗して借金まみれ。……いろいろあるけど、「家族」である日々は続いてゆく。飄々としたユーモアと温かさがじんわりと胸に沁みる、現代家族小説の白眉。解説・木内昇(双葉社ウェブサイトより)

4位『世界でいちばん透きとおった物語』杉井光[著](新潮社)

5位『半沢直樹 アルルカンと道化師』池井戸潤[著](講談社)

6位『コーチ』堂場瞬一[著](東京創元社)

7位『蘇れ、吉原 吉原裏同心(40)』佐伯泰英[著](光文社)

8位『吸血鬼の原罪 天久鷹央の事件カルテ』知念実希人[著](実業之日本社)

9位『クスノキの番人』東野圭吾[著](実業之日本社)

10位『ギリシア人の物語4-新しき力-』塩野七生[著](新潮社)

〈文庫ランキング 11月7日トーハン調べ〉

Book Bang編集部
2023年11月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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