【話題の本】『思い出の屑籠』佐藤愛子著

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■衰え知らずの記憶力

11月5日に100歳を迎えた著者のエッセー。97歳で週刊誌連載を終え、「精も根も尽き果て、もの書きのダシ殻になった」ものの、「毎日が退屈」で原稿用紙に向かう日々に。その原稿が本書になった。

兵庫県鳴尾村(現・西宮市)での幼児期から小学校時代までの思い出がつづられる。著者を溺愛する父(小説家・佐藤紅緑)に困惑したり、「おやすみなさーい」と言うと「おう」と返ってくる父の声が「幸福の源泉」になったり。父娘の交流をはじめ、元女優の母や姉、4人の異母兄、お手伝いさんらのエピソードも。「町中の人が歌が好きだった」。家事をしながら流行歌を歌うお手伝いさんの様子やアッパッパー(女性の夏の簡易服)を着た姿には、大正から昭和初期の風俗が表れている。

「人生で屑籠に捨て去ってきたものから、幸福だった時代の思い出をすくい上げた。その記憶力、人間観察力に、作家・佐藤愛子の原点があります」と編集担当の藤平歩さん。100歳を迎えて注目度も高く、初版から5万部を発売。60~90代の佐藤ファンを中心に順調に売れ、共感の声も届いているそうだ。

帯には、著者自身の言葉だという「愛子の戦い、これでおしまい」の惹句(じゃっく)もあるが…。(中央公論新社・1430円)

三保谷浩輝

産経新聞
2023年11月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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