<書評>『超人ナイチンゲール』栗原康 著

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超人ナイチンゲール

『超人ナイチンゲール』

著者
栗原 康 [著]
出版社
医学書院
ジャンル
自然科学/医学・歯学・薬学
ISBN
9784260054423
発売日
2023/11/20
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『超人ナイチンゲール』栗原康 著

[レビュアー] 杉本真維子(詩人)

◆垣根を超える看護の炎

 16歳のとき「わたしに仕えよ」という神の啓示をきいたナイチンゲール。裕福な家に生まれた彼女がその後どのようにして当時は最底辺労働であった看護の道へ進んだのか。本書はナイチンゲールの看護を「神秘主義としてのケア」として読み解く。ときに脱線(トルストイ、長渕剛など)が加えられることで文脈がひろげられ、神の無限が示唆される。

 印象的なのはナイチンゲールにおいて神とは「かんじる」ものだという視点だ。それはそのものの中へ入っていくことにほかならない。それが「憑依としての看護」であり、看護の本質であるという。憑依といってもオカルトではない。たとえば人物についての叙述の文末に時々出現する声「やったあ」「父ちゃん!」などは著者による憑依の一形態だろう。

 そのような他者への身の投げ方の先にあるものが、ナイチンゲールの「脱病院化」だという。つまり健康と病気、救う者と救われる者、わたしとあなた-それらすべての垣根を彼女は超えようとした。そんな「超人」の胸の炎を見つめたい。

(医学書院・2200円)

1979年生まれ。アナキズム研究が専門。著書に『サボる哲学』。

◆もう一冊

『創造(つく)られたヒロイン、ナイチンゲールの虚像と実像』宮本眞巳ほか著(日本看護協会出版会)

中日新聞 東京新聞
2024年2月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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