<書評>『沖縄戦と琉球泡盛 百年古酒(クース)の誓い』上野敏彦 著

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沖縄戦と琉球泡盛

『沖縄戦と琉球泡盛』

著者
上野 敏彦 [著]
出版社
明石書店
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784750354293
発売日
2022/07/04
価格
2,750円(税込)

書籍情報:openBD

<書評>『沖縄戦と琉球泡盛 百年古酒(クース)の誓い』上野敏彦 著

[レビュアー] 杉本真維子(詩人)

◆県民の誇り 復権の道のり

 沖縄戦と琉球泡盛という二つの大きなテーマを柱に沖縄のいまを追う渾身(こんしん)の一冊。沖縄戦によって灰燼(かいじん)に帰した地から琉球泡盛はどのように蘇(よみがえ)ったのか−。それはとりもなおさず私たち人間の復権の道のりといえる。

 序章の一つ目「カウンター下に隠す酒」がいきなり心にささった。戦後、沖縄県民はみずから泡盛を洋酒より劣る酒として扱ったという。その話に、琉球処分によって国を奪われ、沖縄戦で「捨て石」にされた沖縄県民の砕かれたプライドと痛みを思わずにはいられない。「君は日本人なの?」と国費沖縄留学生として入った本土の大学で級友に突然問われ、あまりのショックに声が出なかったという元琉球朝日放送社長上間信久のエピソードも心に残る。大切なものはイデオロギーよりもアイデンティティー。そのことを本書は一貫して訴える。

 厖大(ぼうだい)な取材のなかから浮かび上がる沖縄戦の惨(むご)さと琉球泡盛に携わる人々の情熱。敗戦後の瓦礫(がれき)の山を掘り起こし、泡盛の蒸留に必要な黒麹(こうじ)菌を発見した咲元酒造の二代目蔵元佐久本政良。そのよろこびのさまはまさに生存者を発見した者のそれであり、たしかに黒麹菌は一つの命なのだと強く思わされる。

 佐久本はその黒麹菌を他の酒蔵にも分け与え、泡盛復興の土台を作った。東大名誉教授の坂口謹一郎は論文「君知るや名酒泡盛」を発表し泡盛に一躍脚光を浴びせた。泡盛専門の居酒屋「うりずん」の店主土屋實幸と「醸界飲料新聞」の創刊者仲村征幸は一九七〇年前後から業界を牽引(けんいん)し続けた。とりわけクースの番人と呼ばれた土屋は百年後も泡盛が残る戦争のない世の中を作ろうと「泡盛古酒百年運動」をおこし、平和のために尽力した。しかし、そんな二人も近年、この世を去った。

 泡盛六百年の歴史とドラマを一望させてくれる本書。私たちはいまとても不安な時代を生きているが、力を合わせて泡盛を守り、大切に育てた人々の姿に励まされる思いがした。まさに平和とは育てるものなのだということを彼らは私たちに伝えている。

(明石書店・2750円)

記録作家、コラムニスト、元共同通信記者。『そば打ち一代 浅草・蕎亭(きょうてい)大黒屋見聞録』など。

◆もう1冊

上野敏彦著『福島で酒をつくりたい 「磐城壽」復活の軌跡』(平凡社新書)

中日新聞 東京新聞
2022年8月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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