『伊藤野枝セレクション』
- 著者
- 伊藤 野枝 [著]/栗原 康 [編集]
- 出版社
- 平凡社
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784582769517
- 発売日
- 2023/08/07
- 価格
- 1,870円(税込)
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<書評>『伊藤野枝セレクション』伊藤野枝 著、栗原康 編
[レビュアー] 杉本真維子(詩人)
◆個人や社会をかき乱すものは
明治から大正にかけて、女性解放運動、アナキズム、労働運動の旗手として活躍した伊藤野枝の評論集。栗原康によるスピード感あふれる解説が野枝の太く短く駆け抜けた28年の生涯と呼応する。
野枝は日本で初めて結婚制度そのものを否定した人物でもある。その厳しく研磨された精神は一方で柔らかな裏声も発している。たとえば、自分そっちのけで仕事に没頭する大杉栄への不満を「『或(あ)る妻』から良人(おつと)へ」のなかでこう綴(つづ)る。
「本当なら一緒になって、ムキにならねばならぬ仕事なのに、あなたがあんまり夢中になるといやでした」
やや舌足らずな言い方に野枝のキュートな一面を想像させられる。自己を凝視し、小さな嫉妬も見逃さない野枝は、個人や社会をかき乱すものは人と人との近すぎる距離だと指摘する。他者との適切な距離を図ること無しに、自己の幸福はありえない、というのだ。
おそらく野枝は読者自身の今を照らし出す装置でもある。一人一人のなかに伊藤野枝はいるという気持ちになった。
(平凡社ライブラリー・1870円)
1895~1923年。『青鞜(せいとう)』主宰。大震災後大杉栄らとともに虐殺。
◆もう1冊
『大杉栄セレクション』栗原康編(平凡社ライブラリー)権力にNO! 自由にLOVE!