<書評>『古本大全』岡崎武志 著

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古本大全

『古本大全』

著者
岡崎 武志 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784480439345
発売日
2024/01/15
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『古本大全』岡崎武志 著

[レビュアー] 荻原魚雷(エッセイスト)

◆まだ見ぬお宝が待っている

 1990年春、33歳のときに高校の国語講師の仕事をやめ、大阪から上京し、文筆家を志す。以来、古本に関するコラムやエッセイを書き続けてきた。その仕事ぶりは研究者のアプローチとはまったくちがう。全国各地の古書店の店頭の棚やワゴンから(あくまでも自分にとっての)掘り出し物を見つけ、面白おかしく紹介する。

 同書「視力がよくなる?」にこんな一節がある。

 「いろんなことを知れば知るほど興味の幅は広がり、以前は見向きもしなかったジャンルの棚が新鮮に見えてくる」

 「古本の視力」が上がると、これまで通り過ぎてきた本の背表紙が輝いてくる。無関係と思っていた人と人がつながり、芋づる式に気になる本が増えてくる。

 著者は「脱力系」文芸という文学史の傍流に位置するような肩の力の抜けた小説、雑文を好む。軽妙な作風が持ち味の木山捷平(しょうへい)もその一人。身辺の雑事を淡々と描いた作品は古本好きの間では根強い人気がある。他にも井伏鱒二、石黒敬七、高田保(たかたたもつ)、殿山泰司といった名前も。

 第3章「古本と私」は、古本屋通いをはじめたころの大阪の話、読書三昧(どくしょざんまい)だった京都の大学生活、そして東京と“古本三都物語”かつ“古本自叙伝”という構成になっている。第4章は白水社のPR誌で連載中の「愛書狂」を収録。その時々の古本事情をまじえながらの書評風時評は1本600字弱の短文だけど、読み応えあり。

 古本屋の棚を通して時代の移り変わりを眺める。古本の間に挟まっている映画やコンサートの半券、切符、割り箸の袋も貴重な資料になる。

 自分が生まれる前の流行風俗を古雑誌で知る。いつの間にか見かけなくなった本を手にとり、昔を懐かしむ。小説を読み、その舞台になった町を散策する。

 年をとるにつれ、本の好みもすこしずつ変わる。変わった先にまだ見ぬ新たなお宝が待っている。

 『古本でお散歩』など、ちくま文庫4冊分を再編集、新稿を加えた文庫オリジナル。

(ちくま文庫・1100円)

1957年生まれ。著書『蔵書の苦しみ』『憧れの住む東京へ』など多数。

◆もう一冊

『昨日も今日も古本さんぽ 2015-2022』岡崎武志著(書肆盛林堂)

中日新聞 東京新聞
2024年3月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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