<書評>『商店街の復権 歩いて楽しめるコミュニティ空間』広井良典 編

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商店街の復権

『商店街の復権』

著者
広井 良典 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784480076083
発売日
2024/02/08
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『商店街の復権 歩いて楽しめるコミュニティ空間』広井良典 編

[レビュアー] 小松理虔(ローカルアクティビスト)

◆地域再生へ 逆転の思想

 商店街について、そのポジティブな効果や事例をまとめた類書を、過去に何冊か読んだことがある。そこで紹介されるのは、欧州や国内においてコンパクトな中心市街地形成や商店街再生に成功した各地の事例だ。読むたびに、こういうことをウチの地元でもやってみたいけれど、自動車中心のまちづくりが進められてきた日本の平均的な地方都市では、ましてや地元では事態を好転できるはずがない…などと絶望を感じていた。

 だが本書は、商店街を諦めなくていい、いやむしろ自ら主体的に参画し、小さな動きでもいいから主体的に関わってみようという気にさせてくれる。それはなぜか。「なぜ商店街の活性化が難しかったのか」が、政策面を中心にさまざまな角度から考察されているからだ。「なるほど、だからこんなふうにダメになっているのか」と腑(ふ)に落ちる。

 加えて、商店街研究の歴史、聞き取り調査の結果、それらから読み取れる商店街の意義なども言語化される。他方では、経済物理学的な観点から、耕作放棄地とシャッター商店街を、中山間地と市街地の「未利用ストック」として考察。利用権の公有化などを例示した上で、それぞれを地域特産品の供給、販売の拠点とする新たな地域経済システムを構想するなど、スケールの大きな提言もある。読者の知的好奇心、探究心をくすぐる論拠が1冊にまとまっているのだ。

 地方にありふれた「不良債権」を地域再生の鍵と考える。この逆転の思想を、私は本書から読み取る。これに照らせば、商店街は「古臭(くさ)いもの」ではなく「新しいもの」に生まれ変わり、チャレンジしがいのあるものになっていく。

 私もまた、福島県いわき市という地方都市に暮らし、「小名浜銀座商店街」に事務所を構える一人である。うちの事務所を使ってこんなことができそうだなと突拍子もないアイデアが頭に浮かぶが、まずは商店会長にこの本の読書会を提案してみようと思う。地域を舞台に探究学習を進めている高校生にとっても必携の書になるだろう。

(ちくま新書・1320円)

広井 1961年生まれ。京都大教授・公共政策。執筆者はほかに9人。

◆もう一冊

『ショッピングモールから考える』東浩紀、大山顕著(幻冬舎新書)

中日新聞 東京新聞
2024年3月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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