<書評>『弥生人はどこから来たのか 最新科学が解明する先史日本』藤尾慎一郎 著 

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弥生人はどこから来たのか: 最新科学が解明する先史日本

『弥生人はどこから来たのか: 最新科学が解明する先史日本』

著者
藤尾慎一郎 [著]
出版社
吉川弘文館
ISBN
9784642059879
発売日
2024/02/21
価格
1,870円(税込)

<書評>『弥生人はどこから来たのか 最新科学が解明する先史日本』藤尾慎一郎 著 

[レビュアー] 譽田亜紀子(土偶女子で文筆家)

◆縄文からの大転換に迫る

 私が縄文時代や土偶の講演で必ず話す時代区分が、高校日本史教科書改訂で大きく変わった。縄文時代のはじまりが土器の出現を指標に、3千5百年も早まり、約1万6千年前に。弥生時代も、水田稲作のはじまりを指標に約4百年早まり、約2千8百年前にさかのぼることになった。

 この約2千8百年前といえば、日本で一番有名な遮光器土偶が東北で作られている時期。縄文びいきの私としても、いくらなんでも早まりすぎではないかと思うが、これが最新科学の手法によって導き出された結果である。

 本書には科学的な調査や論考を軸に、著者をはじめとする国立歴史民俗博物館が、弥生時代の新しい時代観をどのように再構築したかが記されている。だが、これがちょっと難しい。「土器型式」という用語で語られる項は、なじみがない人には暗号みたい。

 そこを乗り越えると日本人起源論に迫れる。実に多様なDNAを持つ弥生人に驚く。弥生人の骨がもっとも多く出土する九州には、3タイプの弥生人がいたとされる。(1)縄文人の直系の子孫である縄文系(2)大陸から水田稲作を持ち込んだ渡来人(3)縄文系と渡来人が混血した渡来系-だ。

 弥生早期の渡来人のゲノムの中には、もとから渡来系に類似するゲノムをもつ人がいた可能性もあるとか。だとしたら、縄文人と大陸の人の混血は、ゲノムに表れるほど縄文時代の早い時期から行われていたのかもしれない。

 こうした人びとによって、日本列島では、経済的、社会的、祭祀(さいし)的側面の大転換が行われる。それを選択し方針転換したのは縄文人たちだが一様ではなく、地域によって渡来文化を受け入れるタイミングや段階がさまざまあり、混沌(こんとん)とした弥生時代の様相がよくわかる。

 とはいえ、なんでそんな社会を選択したかな縄文人たちよと思わずにはいられない著者の言葉でこの文を終わりたい。「武器のなかった社会に武器を持ち込み、諍(いさか)いには武器を用いて解決を図るという政治的手段を行使する社会、それが弥生時代なのである」

(吉川弘文館・1870円)

1959年生まれ。国立歴史民俗博物館教授。著書『弥生時代の歴史』。

◆もう一冊

『知られざる弥生ライフ』譽田亜紀子著(誠文堂新光社)。小学生も楽しめる概説書。

中日新聞 東京新聞
2024年4月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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