縄文vs.弥生 先史時代を九つの視点で比較する 設楽(したら)博己著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

縄文vs.弥生

『縄文vs.弥生』

著者
設楽 博己 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784480074515
発売日
2022/01/07
価格
1,012円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

縄文vs.弥生 先史時代を九つの視点で比較する 設楽(したら)博己著

[レビュアー] 譽田亜紀子(土偶女子で文筆家)

◆最新の研究で浮き彫りに

 この仕事、二つ返事で引き受けたことを後悔した。しかし、縄文時代に関する著作をまがりなりにも出している身として、どんなに苦しくとも本書と向き合わないわけにはいかない。何がそんなに苦しいのか。それは今まで私が書いてきた縄文時代とはまったく違う世界が本書には広がっていたからである。

 著者は縄文時代と弥生時代を専門とする考古学者であり、最新の研究成果をもとに先史時代の姿を浮き彫りにしていく。

 その中で特に戸惑い、悶絶(もんぜつ)しながら読んだ章がある。「不平等と政治の起源」。曰(いわ)く「身近な資源を排他的に有効活用するためにテリトリーが生まれ、それを子々孫々に伝えていく。つまり、財産の継承をスムーズにするために、リネージ(出自集団)や氏族といった親族組織が整えられ、それを基軸に祖先祭祀(さいし)が縄文前期に芽生え、後期にはできあがった」という。にわかには信じがたい。いや、信じたくないというのが本音である。縄文時代がユートピアとは毛頭思わないが、この先には自分たちだけが良ければ他の集団は絶えても構わん、という今の社会と変わらない姿が透けて見える。

 著者は言う。「縄文時代にも世襲的な相続を許されるような有力家系の存在が、このように徐々に明らかにされつつある」「縄文時代はけっして平等な社会ではなかった。特に格差は複雑採集狩猟民の東日本の後期後半以降顕著になる」と。

 実は研究者の中にも後期以降の社会変化を踏まえ、「1万年以上続く縄文時代」を解体してはどうかという議論がある。「縄文時代」というひとつの時代として相対化して語ることに無理があるからだ。それを踏まえても「不平等」「階層化社会」「格差」という強い言葉で書かれる世界に、私はどうしても馴染(なじ)めない。実際に多くの副葬品とともに埋葬された墓があり、集落内に格差があったとしても、現代にはびこる格差とは違うのではないか。

 自分の不勉強を恥じつつも、それでも縄文時代は互いに資源を共有し、「お互いさま」の社会だったと思いたい。

(ちくま新書・1012円)

1956年生まれ。東京大学名誉教授。著書『縄文社会と弥生社会』『顔の考古学』など。

◆もう1冊 

山田康弘著『縄文時代の歴史』(講談社現代新書)。通史がわかる良書。

中日新聞 東京新聞
2022年3月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク