『武器化する経済 アメリカはいかにして世界経済を脅しの道具にしたのか』ヘンリー・ファレル/アブラハム・ニューマン著

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武器化する経済 アメリカはいかにして世界経済を脅しの道具にしたのか

『武器化する経済 アメリカはいかにして世界経済を脅しの道具にしたのか』

著者
ヘンリー・ファレル [著]/アブラハム・ニューマン [著]/野中 香方子 [訳]/鈴木 一人 [解説]
出版社
日経BP
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784296001699
発売日
2024/03/08
価格
2,750円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『武器化する経済 アメリカはいかにして世界経済を脅しの道具にしたのか』ヘンリー・ファレル/アブラハム・ニューマン著

[レビュアー] 櫻川昌哉(経済学者・慶応大教授)

金融・情報 米覇権の仕組み

 米ドル決済システムやグローバル通信ネットワークは本来、国際的な取引を円滑にすすめるための道具である。仮に、ある国家がこれらの仕組みを牛耳り、敵対する国家を威圧する道具に変えてしまったらどうなるだろうか。

 本書のキーワードは「チョークポイント」、要するに「隘路(あいろ)」である。本来は海上防衛の用語で、船が必ず通過しなければいけない水上の要衝を指しており、軍事上ないし商業上の重要な拠点となる。マラッカ海峡は代表例である。

 本書は、米国は経済の仕組みをつくりかえて金融と情報の隘路を巧妙に生み出し、かつこれらを手中に収めることによって国際政治の主導権を握っていると語る。それが「武器化する経済」である。

 なぜ米国政府は金融と情報を牛耳れるのか。米ドルが支配的な国際通貨であり、ドル決済システムを担う巨大銀行が米国の規制下にあるからである。そしてグーグルやアップルなど大手情報通信企業が米国を拠点としているからである。

 市場が拡大すると、人々は効率的な取引をもとめるようになる。そしてグローバル市場は顧客のニーズに応えようとして巨大企業の台頭を促す。逆説的なことに、市場の分権化を可能とするのは、集権化という推進力である。

 米国政府は、巨大企業というハブを監視下に置けば、敵対する国家や企業を威圧できることにやがて気づくようになる。9・11以降、意図的に市場経済に介入し、監視を強めるようになった。

 金融と情報を掌握する米国政府は、中国の大手通信機器メーカーのファーウェイを追い落とし、核開発を進めるイランを追い詰めていく。ウクライナ侵攻を狙うロシアへの金融制裁もまた、情報と金融を握る米国主導で実施された。

 規制のない取引の場であるはずのグローバル市場を監視のある取引の場に変えつつある米国の手法が最終的に勝利し、安全で豊かなグローバル社会をもたらすのか、それとも不安定な分断された社会をつくるのか。覇権に興味のある人にとって必読の書である。野中香方子訳。(日経BP、2750円)

読売新聞
2024年4月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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