『兎の眼 文芸書新装版』
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渕書店 BOOKSTORE FUCHI「たくましく輝くいくつもの光り。」【書店員レビュー】
[レビュアー] 渕書店 BOOKSTORE FUCHI(書店員)
昭和40年代生まれの読者である自分には懐かしい匂いがしてなんだかモノクロの夢をみてるような錯覚に陥入りながら読み出した。だがそんなノスタルジックな作品ではなかった。衝撃を受けたのだ。実際、物語のクライマックスシーンの一つ処理所移転の住民集会の場面では身が引き裂かれるような思いがした。
ゴミの処理所の長屋で暮らし世間から差別されている子ども達、他の教師の冷たい目をよそに子ども達と真剣に向き合う教師達、その交流が主たる内容だが、そう書くと非常に軽々しいし舌が足りない。先生は戦い、それに応えるように子ども達も戦う。先生は祈り、子ども達はそれに応える。最善を尽くし祈るということが人間の限界で、祈りは美しい。しかし、それだけで本作は終わらない。祈りは行動を通じ、叶うということを物語はたくましく描く。そんな経験は子ども達が大人になった時、空をゆく流星のような輝いた記憶となるのだろう。教育ってものすごい課題だと思った・・・。