バブルの検証なくして日本の再生はない(出口治明)

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バブル

『バブル』

著者
永野 健二 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103505211
発売日
2016/11/18
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

バブルの時代を総括する骨太の力作

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

出口治明
出口治明さん

 巷間「失われた20年」などといわれている日本迷走の原点が、バブルの時代にあったことはだれしも異論がないだろう。本書はこの疾風怒濤の時代を正面から骨太に描ききった力作である。

 著者は、バブルとは「野心と血気に満ちた成り上がり者たちの一発逆転の成功物語であり、彼らの野心を支える金融機関の虚々実々の利益追求と変節の物語である。そして変えるべき制度を変えないで先送りをしておきながら、利益や出世には敏感な官僚たちの『いいとこ取り』の物語である」と定義する。勢い登場人物はバブル紳士(成り上がり者)、金融界の要人、高級官僚たちとなる。著者は記者としてこれらの人々に直に取材した強みをもつ。

 本書は4章からなる。第1章「胎動」は三光汽船の話から始まる。一瞬なぜかと思ったが、読み進んでいくと著者がバブルの時代に開花する種を丁寧に拾っていることがよくわかる。国際競争にさらされたメーカーと規制業種(その主役が、興銀、大蔵省、新日鉄)という二つの日本の亀裂が大きくなっていく。

 続く第2章は「膨張」。1985年のプラザ合意はグローバル化と金融化(カジノ化)という新しい世界の現実を日本に突きつけた。86年の前川レポートが日本をつくり変える「構造改革のラストチャンスだった」(ドイツはその道を歩んだ)。しかし、政治家や官僚、銀行などの日本のリーダーたちは構造改革の痛みに真正面から向き合うことを避けて楽な道(金融緩和と財政拡大)を選んだ。財テクが盛んになり、特金・ファントラが活発化し、銀行は土地融資に活路を見出す。NTT株の上場が市民の心に火をつけ、リスクの感覚は置き忘れられた。

 第3章の「狂乱」。88年から89年にかけて熱狂(ユーフォリア)の渦が日本を巻き込む。この章では著名なバブル紳士が登場し、リクルート事件やイトマン事件が語られる。しかし、バブル時代の咎は彼らにあったのか、エスタブリッシュメントは本当に無罪だったのかと、著者は鋭く切り込む。

 そして、第4章は「清算」。90年に入ると株価は急落し、やがて土地もそれに続く。当然、銀行は膨大な不良債権を抱え込んだ。戦後日本の司令塔だった興銀の末路。危機感を強めた当時の宮沢喜一総理は三重野康日銀総裁と歩調を合わせて公的資金の投入を考える。著者は「それを阻害したのは銀行と官僚。あえていえば、政官民の鉄の三角形のなれの果てだった」と指摘する。

 僕は著者と同時代人である。81年には興銀で1年間働き、ザ・セイホの時代に日本生命の運用企画部門でMOF担を務めていた。あのバブルの時代は何だったのか、だれかにきちんと総括してほしいとずっと渇望していた。やっと読み応えのある1冊に出会った気がする。著者は、現代のリーダーには「不確かでコントロールできない市場」を理解しつつ、それでも「その不確かさを信頼しゆだねる謙虚さ」が求められるという。まったく同感だ。バブルの物語に謙虚に耳を傾け、教訓を汲み尽くすことなくして、わが国の再生はありえないだろう。とくにバブルの生成に深く関与した金融機関で働く若い人には本書をぜひ手にとってほしい。

週刊金融財政事情
2016年12月12日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

一般社団法人 金融財政事情研究会

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