遺影がもたらす謎『雨利終活写真館』芦沢央

レビュー

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雨利終活写真館

『雨利終活写真館』

著者
芦沢 央 [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784093864602
発売日
2016/11/29
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

遺影がもたらす謎『雨利終活写真館』芦沢央

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 2016年の年末のミステリランキングでも短篇集『許されようとは思いません』(新潮社)が好位置につけている芦沢央。新作『雨利終活写真館』はこれまでの毒を感じさせる作風とは違い、ハートウォーミングな物語だ。もちろん、謎解きの仕掛けや人の心情の描き方は相変わらず上手い。

 東京、巣鴨にある雨利写真館は遺影の撮影専門だ。

 亡くなった祖母の遺言状に疑問を持つ黒子ハナは、生前の彼女が何かヒントを残さなかったかと考え、遺影を撮影したこの店を訪れる。すると出てきたのはよどみなく話す終活マネージャーの女性、並外れて不愛想なカメラマン、埼玉出身なのになぜか大阪弁を話すアシスタント青年という個性的な面々。圧倒されつつもハナが彼らに相談するのは、祖母の手書きの遺言になぜか子どもたちの中でハナの母への財産分与だけ何も書かれていなかったという謎。金の問題ではなく、自分は愛されていなかったと落ち込む自分の母を見かねて、ハナは独自に調べることにしたのだ。彼らと語るうちに指摘された、意外な事実とは……。

 実はハナは表参道の美容室の職も恋も失くしたばかりの身。この一件以降、写真館でスタイリストとしての職を得た彼女は、以降は彼らとともに来客たちの抱える謎に向き合っていく。息子と孫の険悪な仲をなんとかしたいと親子3代での遺影撮影を希望する老紳士、写真館に長らく保存されていた妊婦とその夫らしき人物の遺影写真、妻と若い女性、それぞれと遺影を撮ろうとする末期がん患者の男性。人が遺影を撮影しようとする時、そこにはどんな思いがあるのか。謎が解き明かされた時に切なくも温かい気持ちになるのは、そこには必ず、誰かが誰かを想う気持ちが存在しているからだ。

光文社 小説宝石
2017年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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