『探偵は女手ひとつ』 山形在住アラフォー元刑事の活躍

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探偵は女手ひとつ

『探偵は女手ひとつ』

著者
深町秋生 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334911379
発売日
2016/12/14
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

新ヒロインは地方都市探偵 新境地をひらく連作集

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 日本の私立探偵小説の舞台は大半が東京。地方の探偵ものも、札幌や大阪、福岡等大都市中心だが、本書の主要舞台は山形市。山形は県庁所在地だし、小さな町では決してないが、隣県の仙台に比べるとやはり小規模な地方都市だ。本書はまぎれもない地方都市探偵ものなのである。

 しかも主人公の椎名留美は女性。山形在住のアラフォー女探偵なのだ。山形署の元刑事で、同僚と結婚して退職、娘を儲けるものの、夫の殉職で働かざるを得なくなり、四年前に探偵事務所を開いた。

 といっても、「来る仕事のほとんどは便利屋の範疇」で、パチンコ店の並び代行に農家の手伝い、高齢者のおつかいからデリヘルの送迎運転までこなす日々が続いている。

 収録作は全六篇。冒頭の「紅い宝石」は、かつての上司である東根市の署長・有木(ゆうき)の依頼でさくらんぼ泥棒の捜査をすることに。便利屋仕事が中心というと、いかにもドメスティックで呑気な印象だが、探偵仕事には危険もつきまとう。本篇でも男たちに襲われ、一歩間違えれば大ケガというシーンが出てくる。

 女子高生の変死事件を追う「昏い追跡」、刑事時代に渡り合った元やくざの依頼で失踪したデリヘル嬢捜しに乗り出す「白い崩壊」と、二篇目三篇目でも犯罪絡みの仕事が続くが、あぶなそうなときには、刑事時代に面倒を見た暴れん坊のあんちゃんの助けを借りて難を逃れる。

 各篇とも軽タッチの話作りだが、事件を通して不況に高齢化、人口の減少といった地方都市の諸相も浮き彫りにされる。その意味では、社会派ミステリーのテイストも濃いが、「おはようさん。えらい天気だなっす」「ホントだず。ついてねえべ」等、全篇通じて交わされる山形弁会話で堅苦しさを感じさせない。

 留美の刑事時代の話や愛娘・知愛(ちえ)との交流など、まだまだ話が広げられそうだし、長篇にも期待。武闘派・深町の新境地をひらく連作集だ。

新潮社 週刊新潮
2017年1月12日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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