<東北の本棚>母を訪ねて往還の日々

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<東北の本棚>母を訪ねて往還の日々

[レビュアー] 河北新報

 <籠やさんと呼ばれし祖父は石榴木の下に足なげ籠あみており>。著者のふるさとは宮城県加美町。祖父は籠編み職人で、祖母と小さな家を建てた。そこに1本の大きな石榴があった。表題はここに由来する。
 1948年生まれ。学校を出て横浜市で働いた。2005年に「塔」に入る。入会以来の作品から446首を選んだ。
 短歌を始めたのは、父親の突然の病死がきっかけだ。出稼ぎに東京に出て、そこで労働組合をつくるような人だった。お金はないが、優しい人。父親の記憶を思いつくまま書き記した文章が、気がつくと五七五の定型に、短歌らしくなった。<父の死に帰る故郷は闇深くまばらまばらに灯の点りおり>
 母親1人になり、頻繁に帰郷するようになる。<ぐんぐんと薬莱山の迫りきて母の待つ家いよよ近づく><うたた寝の母の睫の震えおり昼月残る南の窓辺に>。一昨年12月に94歳で亡くなるまで、母親の世話をする生活が17年間続いた。
 酒を愛する。<母あればはらから集う家あるを喜びとして越の酒飲む><ふるさとへ帰ろう帰ろうと酔いながら酒場の隅で終わる五十代>。いつの間にか、著者自身も老いてきた。しかし「自分の老いは歌にしたくない。次のテーマは模索中」と語った。
 青磁社075(705)2838=2700円。

河北新報
2017年4月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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