[本の森 仕事・人生]『凹凸』紗倉まな/『やめるときも、すこやかなるときも』窪美澄

レビュー

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凹凸

『凹凸』

著者
紗倉 まな [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784040689012
発売日
2017/03/18
価格
1,296円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

やめるときも、すこやかなるときも

『やめるときも、すこやかなるときも』

著者
窪 美澄 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784087710526
発売日
2017/03/24
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

[本の森 仕事・人生]『凹凸』紗倉まな/『やめるときも、すこやかなるときも』窪美澄

[レビュアー] 吉田大助(ライター)

 人は、人それぞれのやっかいさを抱えて生きている。それは欠落のイメージで語られることも多いが、過剰のほうがふさわしいのではないか? 他者と出会い恋をすることは、相手の存在によって自分の欠落を埋めるのではなく、自分の中にある過剰の一部を、相手にゆだねる行為なのではないか。紗倉まなの『凹凸』(KADOKAWA)を読みながら、そんなことを思った。

 全五章の長編ストーリーだ。プロローグで鮮烈な光景が描き出された後、「1章 わたしの娘」「2章 あなたとわたし」「3章 わたしと娘」「4章 わたしはわたし?」「5章 君と僕」。章ごとに語り手=視点人物が変わり、彼らが眼差しを向ける対象が変わる。物語の中核をなすのは、結婚で人生を変えたかった妻・絹子、浮気性で働かない夫・正幸、一人娘の栞という三人家族の関係だ。第一章で母に守られる無邪気な幼女だった栞は、第二章ではひと回り以上年上の智嗣と吉祥寺のアパートで半同棲生活を送る二四歳のフリーターとなり、「おとなになることと母親になること」について思いを巡らせている。智嗣との馴れ初めが、甘やかで艶やかなムードをまといながら語られていった先で、過去が現れ苦みが弾ける。

 過去と現在を行き来しながら進む、スリルとたくらみに満ちた物語は、「男女の凹と凸の関係」の謎をぐるぐる周遊する。それは一義的にはセックスを意味しているが、相手から溢れ出す過剰さ――「孤独が可視化されて、とくとくと鉛のように流れ出ていく」それ――を受け止め、支えようとする関係でもある。最終盤で、一度だけしか描かれないセックスシーンに、その真実が宿る。著者は、AV女優として絶大な人気を誇る。デビュー作『最低。』から大きく飛躍したこの一作で、小説家としても熱い支持を集めることは間違いないだろう。

 窪美澄の最新長編『やめるときも、すこやかなるときも』(集英社)は、著者がこれまで武器としてきた性愛のチャンネルをあえて閉じている。ここで描かれる三二歳の男と女も、やっかいな過剰さを抱えている。家具職人の須藤壱晴は、毎年一二月になると声が出なくなる。心因性の「記念日反応」とされる症状の原因は、自分だけが分かっている。過去の恋にある。その不安を晴らすために彼は、結婚式の二次会でたまたま知り合った本橋桜子に声をかけ、ベッドを共にする。だが、酔っ払いすぎていて、何事もなかった。そのことを残念がったのは、桜子のほうだ。彼女は三二歳に至るも処女で、こんがらがった結果「重い」恋愛観の持ち主で……「私、須藤さんと結婚する」。お互いの秘密やネガティブを、隠すのではなく、打ち明けることで、二人は急接近していく。

 相手を支える時、感じるのは重みだけではない。そこには、ぬくもりがあるのだ。

新潮社 小説新潮
2017年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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