パックンが教える、相手を「説得」するための話術

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パックンが教える、相手を「説得」するための話術

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

パックンの「伝え方・話し方」の教科書 世界に通じる子を育てる』(パトリック・ハーラン著、大和書房)の著者は、ご存知のとおり、お笑いコンビ「バックンマックン」のひとり。ハーバード大学比較宗教学部卒業という実績の持ち主でもあり、現在は東京工業大学でコミュニケーション術の講師も務めているそうです。

そんな実績を軸に、独自の子育て法を明かしたのが本書であり、その主たる目的は「しゃべれる大人」になること。しゃべらない子どもは「しゃべれない大人」になってしまう可能性が高まりますが、「しゃべれる大人」になると、いいことが山ほどあると主張しているのです。

どんな大人もコミュニケーション力があると、得すること三昧です。

仕事がうまくいく。家庭がうまくいく。興味のある分野が広がる。興味のある分野でその興味を満たすツールが増える。何かが上手くなりたい、もっと知りたいというとき人に話を聞ける。さらに、英語ができたら世界中の話を聞ける。自分ができたことを世界に発信するときのツールにもなる。絆が深まる。近所づきあいがよくなる。親子関係がよくなる。きっと老後ももっと楽しくなる。いいことばっかり!(「はじめに」より)

そんな本書のなかから、きょうはハーバード仕込みの話術「エトス」「パトス」「ロゴス」について解説した第4章「ハーバード流話術『エトス』『パトス』『ロゴス』を子どもに使う」を見てみたいと思います。これを駆使できれば、子どもの「食いつき」がおもしろいほどよくなるのだといいます。

相手を説得する話術「エトス」「パトス」「ロゴス」

この項で紹介されている「話術」とは、ギリシャの哲学者、アリストテレスも唱えている「話術の基本」。それは、「エトス」「パトス」「ロゴス」の3要素から成り立っているのだそうです。アリストテレスの『弁論術』に書かれており、議論好きだった古代ギリシャ人が使っていた弁論術、説得術などの言語表現法を体系化したもの。

アリストテレスいわく、弁論の目的は、「論破」ではなく「説得」にある。人と対話をしたり議論をしたりするとき、相手を任したり泣かしたりするのではなく、相手が納得して動き出すように話術を用いるべき。(180ページより)

そして、その説得に使うツールが「エトス」「パトス」「ロゴス」だというのです。著者もこの理論を通して自分の過去の成功例を分析したところ、話がうまくいったときは、だいたいこの3要素を無意識に取り入れていたことに気づいたのだそう。

さらには、これらを意識して話すようにすると、プライベートでも仕事でも、より狙いどおりの結果が得られるようになったというのです。だからこそこの話術を使えば、子どもは親に信頼を寄せ、親の愛情を受け取っていくなかで、本来持っている力を発揮できるようになるのだといいます。

ちなみに3つの要素の定義は、次のようになるそうです。

「エトス」は信頼度。

「パトス」は感情。

「ロゴス」は言葉の力。

(183ページより)

まずはこれを頭に置いて置くことが大切。次に、それぞれについて見てみましょう。(180ページより)

相手にまず信頼してもらう「エトス」

「エトス」は、話している人の人格的なものに働きかける要素。まず話している人を信用しようという気にさせる、しゃべり手本人の強みのことです。「人格が優れている」「品格がある」「人柄がいい」「センスがいい」「おもしろそう」「価値観が合う」「相手はその場にいる聞き手の利益を優先しているように感じる」など、話し手自身の信頼性や信憑性といった人格的な要素がエトスを上げるというのです。

経歴や権力による強さはエトスのひとつ。しかし、それだけにとどまるものではなく、肩書きや経歴がなくてもエトスの高い人はいるそうです。「相手のことを思っている」「親しみやすい」「同じ価値観を共有している」と感じさせることでもエトス度が上がるということ。

子どもに有効なエトスでいちばんわかりやすいのは、「親だから」という言い方。論理的に適切な理由が見つからないとき「親=権力」というエトスに任せてしまうケースです。ところが「親だから」「先生だから」「大人だから」という権力や上下関係のエトスに頼りすぎると、ときには逆効果を生むことも。いうまでもなく、「子どものことを考えている」という姿勢をまず示すことが前提だというわけです。

自己利益で動いていると感じ取られれば、エトス度は下がるもの。たとえば親が「部屋を片づけなさい」というとき、「パパは、自分がラクしたいから僕にやらせるんだろ」と思われてもおかしくはありません。特に父親がものを散らかして、ソファに座ってテレビを見ながら命令だけしていたら、子供から反発されて当然です。

子どもに片づけさせるには、まず有言実行。親も片づける姿勢を見せ、エトスをあげてから促すことが大切だというわけです。あるいは、「みんなで汚した部屋は、みんなで片づけるというルールだよ」と、ルールに当てはめるのもエトスのテクニックのひとつだといいます。(184ページより)

相手の感情に働きかける「パトス」

「パトス」は、聞いている人の感情に働きかける説得要素。つまり、聞いている人に特定の感情を抱かせるような表現のことなのだそうです。心を動かすと、人も動かせるもの。その人の気持ちを使って、説得するうえで大きな役割を果たすのがパトスだということ。

例を挙げましょう。気になる女性のヘアスタイルの変化に気づいたら、「あっ、髪型変えたね。似合っているよ」とほめる。すると相手は喜んで、もしかしたら好意を寄せてくれるかもしれません。このように、ほめて喜びを感じさせるのはパトステクニックのひとつだといいます。

なおパトスを用いた表現は、広告でもよく利用されています。有名なスポーツ選手を起用したCMの狙いは、選手の実績やイメージ、人気などの「人格」によって、商品のエトス度を高める作用です。加えて「この商品を身につけたり使ったりすると、あの選手みたいにかっこよくなれるよ」という憧れの気持ちを揺さぶる効果があり、つまりはこれがパトス。

一方で、先導者が愛国心や他国民・他民族に対する怒りや恐怖をあおり、戦争や迫害を先導するというケースも。また、孫に対する愛や、その孫が困っているのではないかと心配する気持ちにつけこむ振り込め詐欺の手口も、パトスを悪用したものなのだそうです。理屈に合っていなくても、心理的に揺さぶられることで信じたくなってしまうことがあるのが、パトスの特徴だということです。

パトスを上げるキーワードは、「同情」「愛国心」「怒り」「憧れ」「ストーリー」「笑い」「喜び」「愛」「恐怖」「罪悪感」など。そして感情のなかでも、親子関係において最も心を揺さぶられるのが「愛」です。普段から子どもへ愛を示し、子どもからも愛されていれば、子どもは動くし、親のいうことも聞いてくれるというわけです。(203ページより)

言葉の力で説得する「ロゴス」

「ロゴス」は、頭脳に働きかける説得要素。その人のいうことを頭で考えて理解し、納得する表現のことだといいます。「論理性がある」「理論的である」ということでロゴスが高まるわけです。事実、ロゴスという言葉のなかには、その語源でもあるロジック=論理的という意味が含まれているのだとか。

論理的に話すことは、日本人の得意技。議論するときは理路整然と話しますし、相手を説得する際にはロジカルな説明がよく使われるわけです。とはいえ、「それでは相手を説得できない」と感じることも多いはず。実は論理的な主張は、人を動かすための手段として、意外と強くないのだそうです。

「A+B=C」と淡々と語るより、言葉のうまい表現、音の連発、比喩表現などを使ったほうが「ロゴス」としては強いというのです。なお、このことを説明するために、著者は原発についての議論を引き合いに出しています。

電力会社の人が、二酸化炭素排出量や発電のパワーの数字を出し、他の燃料の特性と比較し、原発の利便性について理路整然とした主張をしたとします。しかしその前で、福島第一原発事故の話をひとつでも具体的に描写したとしたら、電力会社の人の論理的な話はすべて負けてしまうことになります。理由は明快で、パトス、つまり感情に働きかけるから。しかも原発事故の責任者である電力会社は、エトスの面でもマイナスを抱えているわけです。

「この事故によって避難生活を余儀なくされた」

「帰宅困難になった」

と、当事者であるというエトスを持った人が反論していると、話してのエトスも上がります。そのため電力会社の人がいくら論理的に主張しても、太刀打ちできないということです。

論理は紙のうえでは有効ですが、話術としてはいちばん低い位置にあると著者は解説しています。(219ページより)

こうした基本を軸として、本書ではさらに奥深く、「エトス」「パトス」「ロゴス」を用いた子どもとのコミュニケーション方法を明らかにしています。ひとつひとつの考え方に説得力があるのは、お笑い芸人であるとか大学講師であるという以前に、著者自身が小学生の子どもを持つ親だからかもしれません。

つまり本質的な部分は、世のすべての親と変わらないのです。子どものコミュニケーション能力高めたいという人は、読んでみてはいかがでしょうか?

メディアジーン lifehacker
2017年6月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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